第6話

ep . 5
106
2024/06/27 06:57
side : 中島







佐「 その 、言っちゃったの、ずっと言ってなかったのに 」








俺の目の前で 仄かに頬を赤らめ、またお酒を体内に流し込む勝利。

さすがに飲みすぎじゃないか、とも思うけど 好きな人に振り回されてこんなにまでなる勝利が可愛くて、同時に まだ気付かないフリを続けているらしいあなたにも胸が痛くなる。








佐「 … どうしたらいい 、? 」





中「 うーん 、どう… 勝利、相談ざっくりしすぎじゃない?(笑) 」





佐「 っ、だってもうおれ 、 」







「 あー…勝利、水。水飲んで。(笑) 」と、またお酒を取ろうとする手を慌てて止める。

コレはだいぶ大変だな..。


きっかけは一通のLINEだった。
「相談があるんだけど」勝利からそんな文章を送ってくることは滅多にない。
これまでは成行きでご飯に行った時に、少し恋愛相談を聞くぐらいだっただけで。

恋愛に限らず、自分から人を頼ることをあまり好まない勝利は 頼るとしても極力 相手に迷惑をかけないように最善を尽くそうとする。今日だって、通話で済ませようとしていたらしい。
さすがに滅入ってそうだったからオレが家に誘ったけど。








中「 もう溢れちゃったんだよな、想いが。 」





佐「 意味わかんない 、 」





中「 10年以上好きなんでしょ?それなのに本人に"好き"って伝えることすら許されないとか… 俺だったら耐えられる気しないわ。(笑) 」








" 俺はべつに、付き合えなくてもいい、 し"
なんて、見え透いた強がりを出す勝利が可愛すぎて思わず笑ってしまう。あんまり笑うと怒られるから頑張って我慢はするけど。(笑)


でもきっと多分、勝利もよく分からなくなっているんだと思う。

勝利が想いを寄せる相手… 鈴木あなたは、"超"人気アイドルだ。凄まじい努力を重ねて上り詰めた実力派だ。事務所の誇りの紅一点だ。
そんな彼女は、恋愛など一切する気はない。
恋愛ってしたいとかしたくないとかそういう物じゃないとは感じるが、アイツはまるで何かに脅されているかのように、頑なに恋愛について前向きなワードは出さない。

そんなあなたに一生片思いを続けている勝利。

最初は、
"付き合えなくてもずっとそばにいれるならソレでいい"
"あなたとずっと一緒にいられるなら関係性なんて関係ない"
と思っていた気持ちも、いつしか苦しさに変わってしまったのだろう。


当たり前。恋ってそういうモンなのだから。
わけのわからないほど、貪欲になってしまう、そういうモノだから。








中「 勝利はどうしたいの?これから。 」





佐「 これから ? 」





中「 あなたと付き合わなくてもいいなら、あなたの気付かないフリに乗っとけばいいじゃん。何事も無かったかのように過ごせるように、アイツはあんなことしてんでしょ? 」





佐「 っ… けんてぃー って案外辛辣だよね 」





中「 ッはは、こうでも言わないと勝利素直にならねーだろ。(笑) 」





佐「 … 俺は、おれは あなたに振り向いて欲しい、 」





中「 … うん、辛いな勝利。 」








お酒の力を借りないと こうして本音を言ってくれない勝利が、思わず「好き」と口に出してしまったぐらい、それくらい好きなのに、本人からは想いをぶつけることさえ許されない。

だからと言って、あなたが悪い訳でもない。
あなたにはあなたなりの理由がある。アイツは自分を守ることに精一杯で、自分が命をかけて築きあげた この「今」を壊したくないんだろう。勝利とは、「最高のシンメ」として仲良くするのが彼女の理想の人生なのだろう。



机に突っ伏し、アルコールで今にも眠りそうになっている勝利。
綺麗な長いまつ毛が不規則に揺れる。それがまるで芸術作品の様で見蕩れていると、じわ.とキラキラした水晶玉が彼の瞼から滲んだ。

滲んだソレが涙だと気付いた時、勝利はもうほぼ夢の中だった。








中「 … 勝利 。 」








悔しいけど、お前には敵わないよ。

あなたの「 恋愛はする気ない 」という一言で諦めた俺と、それでも何とかどうにかならないかと密かにチャンスを待っている勝利。

悔しいけど、あなたに1番お似合いだと思うんだよ。


だからさ、勝利。
もう、真っ向からぶつかってこうぜ。

全力で、あなたを振り向かせに。








中「 なにも遠慮しなきゃいけない理由なんてないんだから 」








それが恋なんだから。

自分の気持ちに、正直になっていいんだよ、勝利。




プリ小説オーディオドラマ