おなかが、いたい。
強烈な腹痛で、目が覚めた。
なんとか痛みを逃そうと、
はあ、と息を漏らす。
そんなことで消える痛みではなかったが。
痛みに耐えながらスマホを操作し時刻を確認すると、
いつもの起床時刻より30分ほど早かった。
カムバまであと1週間。
スケジュール以外の時間のほどんども、
これ以上ないほどダンスに全力を注いでいる今、
少しでも睡眠時間は確保したい。
腹痛などに、睡眠を妨害されるわけにはいかない。
布団の中でお腹を抱えるように小さく丸まり、
なんとか少しでも寝ようと目を閉じる。
冷えたなら、トイレで原因を出せば治りそうなものだが、
そのような感じの痛さではない。
突如現れた自分の不調に苛立ちながらも、
知らない間に意識は途切れていたようで、
次に気がついたときには、
起きる時間を、20分程度オーバーしていた。
慌てて飛び起き、ベッドから降りるが、
飛び起きた途端に再び襲ってきた腹痛に、
思わず床にうずくまってしまう。
うずくまること数分、
扉ごしに聞こえる質問に、
無理矢理体を動かす。
私は今、体調を崩すわけにはいかないのだ。
服に着替え、鞄を持ち、
自分の部屋を出る。
寝坊により朝ご飯を食べる時間はないが、
腹痛により食欲のない今は好都合だ。
2階から降りリビングに行き、
今日は寝坊したから朝ご飯はいらないと伝えると、
と、昼食用のお弁当のほかにおにぎりを2つ渡された。
ありがたいが、食べれる気はしない。
もらったそれらを鞄に詰め込み、
急いで家を出る。
これなら、なんとかいけそうだ。
ずっとお腹はずきずきと痛んでいるが、動ける。
動けるなら、練習にいける。
私達にとって、
1週間後のカムバックは最も大事なことだ。
今回のダンスのフォーメーション上、
センターで踊れるのはわずか1人。
私はダンスの上手さから
センターのフォーメーションが多い。
自分の不調で
大事なカムバを台無しにするわけにはいかない。
その一心で、
私は自分の体調不良に目を背け、
メンバーと一緒に練習へと向かった。
なんとかダンス練習をこなし、
打ち合わせに向かっていると、
さーたんに声をかけられる。
怪訝な顔をしながら私に話しかけてくるさーたんに、
内心焦る。
これは、さーたんに言ったものだが、
同時に自分にも言い聞かせていた。
お腹が痛いのも、
なんか体に力が入らなくて
キレのあるパフォーマンスが出せないのも、
全部、気のせい。
納得のいかない顔をしているさーたんは見ないふりをして会議室に入り、
自分の席につく。
その後の午前中の打ち合わせは、
なんにも頭に入らなかった。
なんせお腹が痛い。
打ち合わせ中は腕で腹を抱えることくらいしかできない。
部屋の座席の関係で、
この姿がさーたんに見られずに済んでよかったと思う。
しかも途中からなんだか頭が重くなってきて、
しっかり話を聞くことなんてできやしない。
なんとか説明を聞いているふりをしながら
午前中を過ごし、やってきた昼。
目の前には、
お弁当と、朝ご飯用にと渡されたおにぎり。
結局、ずっと腹痛に苛まれ、
おにぎりを食べることはなかった。
数秒、お弁当とおにぎりを見つめたが、
食べることは諦め、机に突っ伏す。
ふと、頭上から声がかかる。
いつも一緒にいるので見なくてもわかる、
声をかけたきたのはみーたんだ。
そんな、全く根拠のない発言を、
机に伏せた状態でした私に、
呆れた様子で言い放つみーたんとさーたん。
自分自身ともっともだと思うので、もう何も発言しない。
ため息を1つついたさーたんは、
私の前の席に着き、
自分のお弁当を開け、食べ始める。
突っ伏したままだった私だが、
部屋に広がる食べ物の匂いのせいか、
なんだか、腹痛のずきずきに、
胃のむかむかが追加された気がした。
しばらくその状態で我慢していたが、
次第にむかむかは主張を強め、
何かがせり上がってくるのを感じ、
慌てて、がたん、と椅子を鳴らして席を立った。
いきなり立った私に驚いたみーたんに
一言言い残し、
慌てて一番近いトイレに駆け込む。
幸いトイレには誰もおらず、
一番奥の洋式トイレの個室に駆け込んだ私は、
えづく間もなく、
ぼちゃぼちゃと、
消化され粥状となった昨日の夕食を勢いよく
便器に吐き出す。
落ち着く間もなく自分の吐瀉物のすえた匂いに誘発され、
更に続けて胃の内容物を戻した私は、
これ以上誘発されないように急いで水を流し、
ここでようやく一息つくことができた。
一気に吐いたことで胃のむかむかは消えたが、
会議室に戻れば匂いで再び吐き気に苛まれるのは
目に見えている。
とりあえず個室を出て洗面台で口をゆすいだ私は、
昼休憩が終わるまで避難することができる場所を、
回らない頭で考えるのだった
To be continued…















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。