第14話

上書きという名の初体験3
1,987
2024/03/20 23:00
サイドなし。



自宅に到着すると北斗はいつになく
乱暴にドアを開け、玄関に大我を座らせた。


「何されてたのか説明して」


北斗の気迫は物凄いもので
見下ろす眼差しの鋭さに
言葉を探しながら大我は恐る恐る口を開いた。


「痴漢に……あってた……
怖くて……逃げられなかった……」


「は?逃げられなかった?本気でそんなこと
言ってんの?」


北斗は呆れるように顔を近付けると
大我は怯えた小動物のように俯く。


「で、痴漢は今日が初めて?」

「………なんでそんなこと聞くの」


鞄を意味なく抱き締め上目遣いに北斗を見る。


「人目も気にしないで感じてたからだよ。
慣れてる感じだったじゃん。あいつ、誰?」

「.....知らない」

「知らない男にあそこまでやらせたのかよ
呆れる」


腕組みした北斗が溜息をついていると


Tシャツにハーフパンツというラフな格好で
樹が階段を下りてくる。


樹は北斗と大我の顔を見比べ
戸惑ったように口を開いた。


「おかえり。..………何かあった?」

「大我が痴漢にあってた」


樹は驚いたように目をパチクリさせている。


「しかもさ」

「北斗!言わないで」


鞄を放り出して北斗の手に縋ったけれど
あっさりと振り払われ
そこで大我は、やっと北斗の怒りを知った。


「感じてたんだよ。目を潤ませて、顔を赤くして。 しかも相手は知らない男だって」


「おまえ……知らない奴に黙って触らせてたのかよ」


眉を寄せて、大我に視線を向けている
樹の瞳にも怒りの炎が映っている。


「ち、違うっ!無理矢理触られただけだよ。
信じて!」


「無理矢理のわりには感じてたけど。
自分がどんな顔してたか分かって言ってんの?」


きつい眼差しを向けられ
大我は必死で首を横に振り


「喜んでない!気持ちいい顔なんてしてない!」


必死で訴えるが、北斗の冷ややかな怒りも、
樹の憤った様子も変わらない。


「知らない男にあんな顔見せといて、よくそんなこと言えるね」

「大我は男が好きなんだ」

「ちがっ………」

「じゃなきゃあんな感じ方出来ないよ」

「違う……違うっ!!」

「そうと分かれば遠慮はしないよ?」

「え…………」

「俺達必死に我慢してきたのにな。
他人に先越されるなんてさ」

「悔しいよな北斗」

「あぁ」

「樹……?北斗……?」

「大我が悪いんだよ」

「マジでもう無理。キレた」



そして二人は、同時に口角を引き上げて笑った。



「えっ……なに……っ、」

「こい」


二人に腕を掴まれ、強引に2階の部屋へと連れて行かれベッドに座らされる。


「北斗……樹っ……ごめん……って」

「帰りの電車でどんなことがあったか
ちゃんと俺にも詳しく教えてよ」


右隣に腰掛けた樹におもむろに言われ
教えられるはずもなく黙っていると
樹の手がそっと耳に触れて


「おまえ知らない男に触られて感じてたんだろ?」
大我の背に腕を回してきた。


「違う、…………」


「まだ否定するんだ。ここを触らせて喜んでたのに」


そして北斗の手が、足の付け根付近を撫であげてくる。


「そんなことまでさせたのかよ」


いつも優しい樹の不機嫌さも
北斗とは違う意味で恐ろしい。



「…………ちゃんと、全部話すから……」


やっと絞り出した言葉に
樹と北斗は顔を見合わせた。





続く




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