第十四話‐千冬くん
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「俺は」
「…?」
「嫌いなヤツにこんなベタベタしねぇし、すれ違うたびちょっかいかけねぇ」
さっきよりも肩を掴む力が少しだけ強くなって松野君の緊張が私にも伝わる。
まずは嫌いって言われなかったことに一安心しよう。でも、好きと言われなかったことも事実。ということは私は彼の恋愛対象にはなれなかったということだ。
毎日のように喧嘩してる相手が恋愛対象になれるわけがない、冷静に考えれば分かることを松野君本人から突きつけられて私はため息を漏らす。
場地君、やっぱり私に松野君は不釣り合いだったみたい。
心の中でこの場からいなくなった場地君に語りかける。するとそんな胸中を知らない松野君が私の頰をぺチッと叩いて包み込んだ。突然のことに私は目を丸くする。
「痛、なに」
「お前はどうなんだよ」
「え?」
「人の気持ち聞いといて自分は言わねぇなんてねぇよな?」
息がかかるくらいの距離まで顔を寄せてくる彼から目を逸らせば、視界の隅で退屈そうにこの場から去ろうとしているタマが目に入る。
待って、タマまでいなくならないで。そう必死に願うけれど、私の願いは虚しくタマは生い茂る草むらの中へと消えて行った。
そして、それと同時に松野君が痺れを切らした様子でさらに顔を近づけて来た。
「おい。聞いてんのか」
この人距離感絶対バグってる、そんなことを胸の中で訴えながらも、これ以上彼の尋問からは逃げられなくて、とうとう私は覚悟を決めると頰に添えられている松野君の手に自分のを重ねた。
一瞬だけ彼の指先がピクリと跳ねたのが分かって余計に緊張が煽られる。
「い、一回しか言わないから…」
「おう」
こくりと頷いたのを確認すると、私は「はぁ」とひと呼吸置いて伏し目がちに呟く。真っ赤な頬は松野君の手のひらで隠されているからきっと見られてはいない。
「…好きって言ったら迷惑?」
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