莉犬があの雪の夜、ジェルの背中に背負われてこの家にやってきてから、1年半という月日が流れた
かつて怯えた仔犬のように震えていた小さな背中は、少しだけ逞しくなった
今ではシェアハウスの朝は、莉犬の元気な声から始まるのが日常だ
キッチンに立つななもり。の横で、莉犬は尻尾があるかのように嬉しそうに飛び跳ねている
1年前なら考えられなかった光景だ
私立すとぷり学園に通う5人と家で彼らの帰りを待つ莉犬
莉犬は外に出る時は相変わらず耳を隠すための帽子やフードを欠かさないが、家の中では赤髪の間から生えた犬耳を堂々と動かしている
リビングではころんと莉犬が床に転がりながらじゃれ合っている
そんな二人をさとみが呆れたように見ながらも口元には笑みを浮かべていた
るぅとの冷静なツッコミに、さとみが顔を赤くする
そんな賑やかな光景こそがジェルにとって何よりの宝物だった
ジェルがソファに深く腰掛け、目を細める
1年半前、雪に埋もれていた莉犬を助けた自分をジェルは心から褒めてやりたいと思っていた
莉犬がころんとのゲームを切り上げ、トタトタとジェルの隣に座ってきた
莉犬がジェルの腕に頭をこてんと預ける
1年半経っても、莉犬にとってジェルが「特別なヒーロー」であることに変わりはなかった
莉犬の言葉に、部屋にいた全員が動きを止めた
照れくさそうに顔を見合わせる5人
さとみがぶっきらぼうに莉犬の頭を撫でる
ななもり。が優しく微笑んだ
この1年半、彼らは莉犬の過去について深くは聞き出さなかった
莉犬もまた、断片的な恐怖の記憶はあってもそれを言葉にすることはなかった
ただ、今この場所にある温かさだけが莉犬のすべてだった
春には6人で夜桜を見に行き、 夏には庭でスイカ割りと花火をして、 秋にはるぅとが作った甘いカボチャ料理を囲み、 冬にはコタツに6人で潜り込んで、足をぶつけ合いながら笑った
そんな「当たり前」の繰り返しが、莉犬の心の傷を少しずつ確実に埋めていったのだ
ジェルの独り言に、莉犬が力強く頷く
外は穏やかな夕暮れ
6人の影がリビングの床に長く伸びて一つに重なっていた
誰もがこの幸福が永遠に続くのだと信じて疑わなかった
しかし、運命の歯車は、残酷な音を立てて回り始めていた
莉犬を「所有物」と見なす者たちが、すぐそこまで迫っていることに誰も気づいていなかった___












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。