☆リクエスト☆
【雄大 side】
俺にはやっぱり、
アイドルになる資格などなかったのだろうか。
自分の身も守れないようなヤツが、
アイドルなんて出来るわけなかったのだろうか。
分からない、分からないけれど、
今の俺がアイドルになんて程遠いのは確か。
怖い、人が怖くてたまらない。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
呼んでみただけ、と悪戯に笑う。
至って普通の日の、普通の会話。
そりゃあもちろんアイドルというのは
想像よりもずっと忙しくて大変なものだったけれど、
それでもそんな事よりただ楽しくて。
大好きなメンバーとこうやって笑って活動出来るなら
忙しさなんてひとつもしんどくなかった。
この日常が、ずっと続くと思っていたんだ。
今日はソロでのバラエティ。
人には向き不向きがあると言うが、
俺はこういったバラエティは得意な方だと思う。
パフォーマンスは西くんや柾哉くんに敵わないが、
バラエティみたいな仕事は俺が引っ張っていく、
くらいの気持ちでいた。
いつも通りに、いや、いつも以上に
気合を入れて現場へと入る。
にこやかな笑顔を作って、大きく声を張り上げて。
うんうん、まずは第一印象が大事だからね。
おはようございます、と返答が返ってくるのを
聞きながら俺は楽屋へと入っていく。
用意された台本を読みながら
メイクまでの暇を持て余していると、
メイクさんが呼びに来たので移動した。
当たり障りのない話をしながら、
番組は問題なく進んでいった。
…いや、そう思っていた。
何かが、おかしいのだ。
明らかに誰かが俺を陥れようとしている…?
おかしい、俺にだけ明らかに振りすぎだし、
それもこれも全てどう考えても無茶振りなのだ。
使ってもらえるから良いじゃないかと
思うかもしれないが、
最早そういう次元の話ではない。
そういう無茶振りを要求される度に突き刺さる、
共演者さんからの“またお前か”と言う目。
明らかな無茶振りだとわかっていても、
応えられないと凍りつく場の空気。
大勢の人からの嫉妬、妬み、落胆。
あれほど意気込み楽しみにしていたバラエティなのに。
ああ、早く終われ。
意気消沈、とはこのことか。
上手く出来なかった悔しさと
スタッフさんの対応に不信感が募る。
そうこうしていると楽屋のドアがノックされた。
失礼、と呟かれた後、そのドアが開けられた。
と同時に俺の体が強張る。
あの時の、
俺に無茶振りばかりを要求した監督だ。
彼ははあ、と大きな溜息をひとつ吐く。
無意識にグッと手に力が入る。
正直言い返したい気持ちを強く抑えて
ただすみませんと馬鹿の一つ覚えのように呟く。
期待しているだなんて、有り難いけれど
だとしたらあんなやり方しなくてもいいのに。
ずるい言葉だ。
だから、と目の前にいる彼は
いやらしい笑みを浮かべて言う。
俺の服に手をかけて、
手慣れた手つきで服を脱がせようとする。
償いって、こういうこと?
嫌だ、気持ち悪い。
俺はこんなことをするために
アイドルになったんじゃない、
望むところだ、と言いたいのは山々だが、
生憎彼はこの業界のトップクラスの人で、
彼の持つ権力は凄まじかった。
抵抗して、もし俺一人どころか
INIのグループとしての活動のオファーも
来なくなったらどうしよう。
そんな人様に迷惑をかけるようなことは出来ない。
ぐるぐると頭の中に考えが巡る。
唇を強く噛んでこぼれそうになる涙を堪える。
いやだ、怖い、気持ち悪い、悔しい。
最初から目的はこれだったのか?
ねっとりとした手つきに、はあはあと乱れる呼吸。
どれをとっても嫌悪感しかなくて、
ただこの時間が過ぎるのを待つしかなかった。
下着なんかにも手が触れて、思わず身を捩る。
俺の言葉など聞こえていないのだろう。
とうとう彼も服を脱ぎ始めて、
遂に“そういうコト”を始める雰囲気になる。
嫌だけど、嫌だけどこれさえ耐えたら
俺は何のリスクもなく解放される…?
目をギュッと瞑って耐えろ耐えろと
自分に言い聞かせていた時、
プルルルル!!とけたたましく着信音が鳴り響く。
ホッと胸を撫で下ろす。
監督が電話をしている時に
やっと頭が冷静になってくる。
俺は、いくら仕事のためだからって
自分の大切な体を売っていいのか?
仕事がなくなってしまってでも
拒否すべきではないのか?
ぐるぐると色々な考えが巡る。
それでも、いや、
そんなことを考えていると電話が終わったらしい。
いやだ、いやだ、触らないで。
身を捩って逃げようとするけど、
目の前の監督相手にはビクともせず。
違う、そういうことじゃないんだって。
そんな俺の抵抗も虚しく、
いよいよ本格的に体をベタベタと触られる。
この人相手に勝てっこない、
そう思ってからはもう諦めでしかなくて。
こうでもしないとグループが守られないかもしれない。
だってこれほど権力が強い人だ。
俺が我慢すればいいだけの話だから。
ただこの時間が早く過ぎて欲しくて、
目をギュッと瞑って必死に耐える。
はやく、いやだ、
今やっと、監督がこの部屋を去った。
もう散々だった。
気持ち良いわけもない、
ただあの人一人が満足するだけの行為。
無理やりあの人の“それ”を突っ込まれて
張り裂けそうな痛みに耐えて、
血も涙も流して。
本当に虫唾が走る、気持ち悪い。
俺はもうボロボロと涙をこぼしていた。
あの人に体を汚されたのも、
あの人に体を許してしまったのも、
結局言いなりになってしまっているのも、全部。
あの人のことは勿論許せないし、
自分で自分を許せなかった。
だけどここにいてもどうしようもないから、
俺は服を着て荷物をまとめて部屋を出た。
足取りが重い。
これから俺はみんなに、
どう顔向けしたらいいのだろう。
俯いて歩いていると、
すれ違った人にドン!とぶつかった。
するとチッと大きな舌打ちが響いた。
思わず顔を上げると、さっき共演した方だった。
だって、監督が無茶振りをするから、
俺だってあんなの望んでないし、
…そうやって言っても、所詮言い訳だ。
確かに他の人から見たら見せ場を全て持っていって
それでもって大滑りしまくる迷惑野郎だろう。
俺のせいで他のみんなの見せ場は
ほぼ無いに等しかったし。
そう俺が言うと彼はふ、と鼻で笑って、
俺はもうお前のせいでINIに良い印象持ってねえし、
と続けて、
俺が何も言えずにいると、
その後あり得ないようなことを口にする。
俺の目を見て、言う。
メンバーにも嫌われて、可哀想なやつ。
そう捨て台詞を吐いて去っていく。
足元がガラガラと崩れ落ちていく様な心地がした。
こうやって失敗しても、メンバーは、メンバーだけは
俺の味方でいてくれる、そう思っていたのに。
俺の味方なんかじゃ、なかった?
いや、俺の味方なんて初めからいなかった?
ずっと俺の事、騙し続けてたの?
足の力が抜けてその場にへたり込む。
もう何も、信じられなかった。














編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。