第56話

にゅうよく
95
2021/08/14 16:57
風磨くんと手を繋ぎ彼の車に乗り込んだ
しばらく車を走らせて思い出した

あなた「やばい!仕事ほったらかしちゃった!」

頼まれていた仕事を放置してそのまま帰ってきてしまった

どうしよう…
頭を抱えていると風磨くんが真面目な顔で教えてくれた

菊池「大丈夫だよ、あれ嘘の仕事だから」

あなた「え?嘘って…?」

菊池「…はなちゃん、最初から仕事なんか頼まれてないんだよ」

あなた「…え?」

頼まれてない?どういうことだ?
私は固まってしまった
風磨くんは知っているのか?
何を知っていて何を知らない?
そんな私を横目に風磨くんは言葉を続ける

菊池「最初からはなちゃんはあなたを閉じ込める気だったんだよ」

あなた「…知ってたの?」

風磨くんは前を見たまま何も答えない

あなた「ねぇ、風磨くん…何があったか教えて」

少しの沈黙の後、彼が口を開く

菊池「…今は運転してるし、俺も少し混乱してるから…今日は休んで明日起きたら話そう」

ね?と一瞬こっちを見て頭を優しく撫でてくれた

あなた「…わかった」

少し腑に落ちなかったが風磨くんにも色々あったんだと思う
それを考えたらもう何も言えなかった

そんな私を横目に見ながら

菊池「大丈夫、明日ちゃんと話すから、安心して」

前を見ながら優しく言ってくれた

あなた「…うん、大丈夫だよ」

短く返事をすると風磨くんは一瞬笑ってくれた

そのままお互い静かな空気の中家に着いた
とりあえずご飯食べなさいと彼に促され
彼が用意してくれた遅めの夕食を頬張った

もぐもぐと食べていると

菊池「あなたちゃんお腹すいてたんですね」

なんて笑いながら私が頬張る姿を
微笑ましそうに彼は眺めていた

食事が終わり私が満足気にしていると
今度はお風呂入っちゃいなさいと促された

まるで保護者のようだった

はーいと返事をしてお風呂に入る
体を洗い、髪を洗い、湯船に浸かった

あなた「…ふぁー…いいお湯だー」

お腹は膨れ今は暖かい湯船の中
さっきまで倉庫に閉じ込められてたとは思えないくらいの幸せだった

ぬくぬくと温まっていると

菊池「…あなた」

ドアの外から不意に名前を呼ばれた

あなた「なーにー?」

菊池「俺も入っていい?汗かいちゃって」

あなた「うん…はい?!」

何も考えずに返事をした後に気づいた

あなた「え?風磨くん入るの?そしたら私出るよ!」

ばちゃばちゃと湯船の中で慌てる

菊池「いーよ温まってな、てかさ」

混乱する私を置いて彼は話を進める

菊池「一緒に入ろうよ」

あなた「…え?」

一緒に?いっしょに?え?

あなた「い、一緒に?入るの?お風呂?」

菊池「そうだよー」

あなた「ちょ、ちょっと待って…心の準備させて…」

私が言い終わるのと同時にドアがガチャっと開いた

菊池「もう無理、脱いじゃったもん」

そこには煌々と照らされた全裸の彼

あなた「ちょ!…嘘でしょ」

恥ずかしくなり彼とは反対側を向く私

菊池「おじゃましまーす」

なんて呑気な声を出しながらシャワーを浴び始めた

菊池「あー、さっぱりするー」

あなた「…それは…よかったですね…」

こっちはちっともよくないんですけど
私はただ自分の体を丸め、壁を凝視していた

あなた(どこみたらいいの…上?お湯?ひざ?なに?…こういう時どこ見るの?何考えればいいの?)

脳内が大パニックだった

そんな私とは対照的に体、髪を順調に洗っている

菊池「よし、すっきりした」

ひとしきり洗い終えたらしい
私は壁を見ているので彼が今どんな状態かわからない

あなた(洗ったら出てくかな…)

彼はシャワーを浴びるだけだろうと考えていた

しかし気づいた時にはちゃぽんと音がして湯船の水量が上がっていた

あなた「えっ…」

驚いて正面を見てしまった

菊池「ん?なに?」

何も気にしない様子の彼と目が合う

髪が水に濡れ、滴る水滴
露出している肌、たくましい腕
彼が動く仕草ひとつひとつが全て妖艶だった

あなた「…っ…」

あまりにも刺激が強すぎて
私は目を逸らしてしまった

彼はそれに気づきと怪しくにやっと笑い

菊池「なーに?あなたちゃん?見とれちゃった?」

ねぇねぇと面白そうにからかってくる

あなた「ほんとにっ、ちょっと、まって」

もう私は一生壁から目を離さないと誓った

菊池「何照れてんのー?昨日全部見たじゃん」

あなた「み、見てない!見られてない!」

菊池「え?俺全部見たけど?」

あなた「うそっ!?」

驚いた私はまた壁から目を離し
彼と目を合わせてしまった

菊池「うっそーん、電気消してたからあんまり見えてませーん」

少しは見たけどね?
とすごく意地悪な顔をされた

あなた「…風磨くん、意地悪です」

少しムッとした顔をした
それでも彼はお構い無しにけらけらと笑う

菊池「ごめんごめん、面白くて意地悪しちゃった」

そんな顔しないで
と手を伸ばし、私の頬を優しく撫でる
その動きさえも今の私には刺激が強い
指先が濡れている分、いつもとはまた違う感触
自分の体の熱が一気に上がるのがわかった

彼の目を見つめることが出来ない
だからといってどこを見たらいいのかもわからない
困り果てていると彼はふふと笑いながら

菊池「あなた、めっちゃ目泳いでる」

そう言って前髪をかきあげた

彼の動き全部がすさまじく色っぽい

あなた「風磨くん、あんまりかっこよくしないで」

菊池「え?なんで?」

ビックリしたような嬉しいような笑顔で返された

あなた「…のぼせちゃいそう」

そう言うと彼はまた大きく笑っていた


それから2人で手を繋いだり
頬を撫でたり、水鉄砲したり
お風呂の中で色々遊んでいた

時々彼は濡れた前髪をかきあげ
男らしい姿を見せてくる

その度に自分の心臓が大きく跳ねるのがわかった

あなた(ほんとに、のぼせそう)

そろそろ出ようかななんて考えていると

菊池「よし、俺先出るよ」

あなたは後からおいで
と優しく頭を撫でてからばさっと一気に湯船から出る

あなた「ちょ、いきなり…!」

急いで壁側に顔を向ける

あなた(一瞬見ちゃったよ…)

自分の顔が熱くなる

菊池「あなた顔真っ赤」

それだけ言うと彼は満足そうな顔をしながら出ていった

あなた(赤くならない方が無理…)

そんな私とは正反対に脱衣所で
ふんふん鼻歌を歌いながら体を拭いている

菊池「あなたー、のぼせないうちに出なよー?」

あなた「あ、はーい」

さっきまでいたずらっ子だったのに
急に大人のお兄さんになる

あなた(もう、色んなこと起こりすぎ)

風磨くんと付き合ってから
自分の中で色んな感情が出てきてる

でも嫌とかじゃなくて、
自分の知らない自分が出てきて
なんだか嬉しいような、恥ずかしいような

なんだか不思議な気持ちだった

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