あの日から俺は君のことを考えるようになっていた
どんな人だったのかは覚えていない
もう思い出せないほどに遠い記憶だ
会うなんて簡単なことじゃない
でも君に会いたい
4年前に言えなかったこと
4年前の謝罪
君に伝えたいことが溢れるほどにあるから
もう一度君と手を繋いで
あの頃のように2人で好きなだけ好きなことを話そう
2人だけでどこか遊びに行こう
また、2人であの人の話をしよう
思いは次第に大きくなっていく
そしていつしか俺の心には1つの思いが芽生えていた
俺は…
「…俺は居場所を知らないぞ」
「離婚相手と連絡なんてするものか」
「その話はやめろ!!!」
「俺はお前のことを思ってこうしたんだ!!!」
「それに文句を言われる気持ちを考えてみろ!!!」
「あいつに会いたい!?」
「そんな気持ちは自分のことしか考えてないだろ!!!」
「俺も沙奇も喜んで離婚したんじゃない!!!」
「お前には…なんも分かんないじゃんか!!!」
「分かったなら二度とその話をするな…」
「良いな…」
「部屋に戻ってろ…」
溢れる涙で枕を濡らした
あんな父さんを見るのは初めてだった
流れ出る涙は一向に止まらない
怒られたから?
もう君に会えないと感じたから?
俺は楓斗に会いたい
そう願っているだけなのに
どうして味方してくれないんですか、神様
「…分からないわよ、それは」
「会いに行きたいとでも言うつもり?」
「勉強はどうするの?」
「…悪いけど、それは出来ないわ」
「勉強を優先して良い大学に進みなさい」
「金銭面は私が__
「…あの人にそっくりで反吐が出る」
「あの人はもう関係ない」
「私のやり方を間違ってると言うならいくらでも言いなさい」
「貴方がどれだけ叫ぼうと変えるつもりは一切ない」
「今の貴方を見てそう判断した」
「もう揺るがないものを動かそうとしたって無駄よ」
「…何をするつもり?」
「…まさか楓斗!!」
「楓斗!!!」
夕焼けの下を1人で歩く
目の前に伸びる影はどこか寂しそうに見えた
俺の動きに少しの遅れもなくついてくる黒
それにそっと手を当てればその黒も同じように動いた
周囲からすれば独り言だ
影に向かって話しかけても答えなど返ってこない
そんなことは分かりきってる
これからどこに行こうか、なんても問いかける
ずっと黙り込んで何も言わない影
それでも君だけはずっと俺の側に居てくれる
何も言わずに地面に映る君
その頭を少し撫でた
俺の影も俺の頭を撫でようと手を伸ばした
あくびをする
いつの間にか寝たいたようだった
時計を見れば6時を過ぎている
さっきのことを謝りに行こうと部屋を出た
その瞬間に鼻を突くいい匂い
急いで階段を下る
リビングの扉を開けると
「…彩斗…さっきはごめんな」
目の前の食卓に置かれた料理と父の顔を見る
「…お詫び、と言って良いのか分からないが…」
「…すき焼き、作ってみたんだ」
「本当か!?」
「…あぁ、そうだな」
食べ物ってこんなに人を幸せにしてくれるんだ
自分の好物を食べながら改めて思った
それと同時に思い浮かんだことがあった
父さんが振る舞うそれは、母さんの味にとても似ていた












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。