第15話

減少の加速と始まりの場所
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2026/01/24 01:10 更新
 2026年1月24日。暦の上では大寒を過ぎ、一年で最も寒い時期を迎えていた。


 僕たちの鎖骨に刻まれた共有時間は、ついに「80時間」の境界線を割り込もうとしていた。


 その日の朝、いつものようにビデオ通話で顔を合わせた僕たちは、同時に息を呑んだ。
 画面越しの冬香の姿が、背景の壁紙と溶け合うように透けている。
あなた
……まなと君、見て。数字の減り方が、今までと違う
 あなたが指差す先、彼女の胸元の数字は、僕たちが一言も発していないのに、コンマ数秒単位でこぼれ落ちていた。


『79:59:59』


『79:59:50』


『79:59:42』


 僕たちは何もしていない。ただ画面越しに見つめ合っているだけなのに、共有時間は「80時間」という閾値を超えた瞬間から、まるで坂道を転がり落ちるようなスピードで加速を始めたのだ。
マナト
マナト
もう、待ってられないんだね
 僕は呟いた。
 この現象は、終わりが近づくほどにその「口」を大きく開ける。これまでの節約も、我慢も、この濁流のような加速の前では無僕力に等しい。
あなた
ねえ、まなと君。最後に行きたい場所があるの
 あなたの瞳が、これまでにないほど強く、真っ直ぐに僕を捉えた。
あなた
私たちが最初に出会った、あの場所。あそこでもう一度だけ、本物の空が見たい
 あの日。共有時間なんて呪いが現れる前、僕たちがただの大学として、無限の未来を信じて笑い合っていた海沿いの廃線跡。


 そこへ行くには、電車とバスを乗り継いで数時間はかかる。今の減少速度では、移動だけで十数時間を失うかもしれない。
マナト
マナト
わかった。行こう、あなた
 僕は迷わなかった。
 時間を守るために部屋に閉じこもっているうちに、僕たちの存在そのものが消えてしまうのを待つより、残りの時間をすべて「思い出の場所」への燃料として燃やし尽くしたかった。


 僕たちは、家を出た。
 一人で電車に乗っている間も、僕の鎖骨の数字は熱を持ち、音を立てて削られていく。


 あなたに近づくほど、僕たちの想いが磁石のように引き合うほど、時間は光の速さで失われていく。
 駅のホーム。遠くから歩いてくるあなたの姿が見えた。


 彼女は、もはや冬の光そのものだった。
 
 僕たちは言葉を交わさず、ただ並んで、始まりの場所へと向かう列車に乗り込んだ。
 窓の外を流れる冬の景色は、あの日と同じくらい美しく、そしてあの日よりもずっと、僕たちの終わりを急かしていた。

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