2026年1月24日。暦の上では大寒を過ぎ、一年で最も寒い時期を迎えていた。
僕たちの鎖骨に刻まれた共有時間は、ついに「80時間」の境界線を割り込もうとしていた。
その日の朝、いつものようにビデオ通話で顔を合わせた僕たちは、同時に息を呑んだ。
画面越しの冬香の姿が、背景の壁紙と溶け合うように透けている。
あなたが指差す先、彼女の胸元の数字は、僕たちが一言も発していないのに、コンマ数秒単位でこぼれ落ちていた。
『79:59:59』
『79:59:50』
『79:59:42』
僕たちは何もしていない。ただ画面越しに見つめ合っているだけなのに、共有時間は「80時間」という閾値を超えた瞬間から、まるで坂道を転がり落ちるようなスピードで加速を始めたのだ。
僕は呟いた。
この現象は、終わりが近づくほどにその「口」を大きく開ける。これまでの節約も、我慢も、この濁流のような加速の前では無僕力に等しい。
あなたの瞳が、これまでにないほど強く、真っ直ぐに僕を捉えた。
あの日。共有時間なんて呪いが現れる前、僕たちがただの大学として、無限の未来を信じて笑い合っていた海沿いの廃線跡。
そこへ行くには、電車とバスを乗り継いで数時間はかかる。今の減少速度では、移動だけで十数時間を失うかもしれない。
僕は迷わなかった。
時間を守るために部屋に閉じこもっているうちに、僕たちの存在そのものが消えてしまうのを待つより、残りの時間をすべて「思い出の場所」への燃料として燃やし尽くしたかった。
僕たちは、家を出た。
一人で電車に乗っている間も、僕の鎖骨の数字は熱を持ち、音を立てて削られていく。
あなたに近づくほど、僕たちの想いが磁石のように引き合うほど、時間は光の速さで失われていく。
駅のホーム。遠くから歩いてくるあなたの姿が見えた。
彼女は、もはや冬の光そのものだった。
僕たちは言葉を交わさず、ただ並んで、始まりの場所へと向かう列車に乗り込んだ。
窓の外を流れる冬の景色は、あの日と同じくらい美しく、そしてあの日よりもずっと、僕たちの終わりを急かしていた。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。