第3話

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2026/05/17 21:52 更新
警報が鳴り止んで十分後。

基地の空気は完全に戦闘態勢へ変わっていた。

廊下を走る兵士たち。

飛び交う指示。

武器庫へ向かう幹部たち。

その中でショッピだけが食堂に取り残されていた。

「……」

椅子に座ったまま、静かに拳を握る。

身体がうずいていた。

戦場へ行け、と。

動け、と。

S国で叩き込まれた“兵器”としての本能が叫んでいる。

だが――。

(俺は今、敵国に潜入中や)

下手に動けば正体がバレる。

軍人としての動きは隠さなければならない。

そう判断し、ショッピは視線を落とした。

その時。

「何しとるん?」

声がした。

顔を上げると、武装を整えたゾムが立っていた。

ナイフを腰に下げ、いつもの軽い笑みを浮かべている。

「……別に」

「戦場行きたそうな顔しとる」

「してません」

「するやろ。軍人の顔やぞそれ」

ドク、と心臓が鳴る。

ショッピは無意識に表情を消した。

だがゾムは追及せず、ただニヤッと笑った。

「来る?」

「は?」

「任務」

ショッピは眉をひそめる。

「……頭おかしいんですか」

「よぉ言われる」

「敵かもしれん奴を?」

「俺、勘ええねん」

ゾムは平然と言った。

「お前、悪い奴ちゃうやろ」

「……」

その言葉に、ショッピは返事ができなかった。

悪くない?

自分が?

今までそんな風に言われたことなど、一度もない。

S国でのショッピは、“成功率の高い駒”でしかなかった。

「まぁ最終判断は総統やけど」

そう言ってゾムは食堂を出ていく。

数分後。

会議室へ呼び出されたショッピは、盛大に後悔していた。

「何でおるんですか俺」

「面白そうやから!」

グルッペンが即答する。

「理由が終わっとる」

トントンは頭を抱えていた。

「総統、普通こんなん許可しません」

「せやけどショッピくん強そうやし」

「“強そう”で決めんでください」

「俺は賛成」

ゾムが手を上げる。

「動き見たやろ。アレ素人ちゃう」

「……」

ショッピは黙った。

図星だった。

シャオロンも腕を組む。

「戦力になるならええんちゃう?」

「お前らなぁ……」

エーミールだけが静かにショッピを見ていた。

その視線は優しいのに鋭い。

まるで全部見透かしているみたいで、ショッピは少し居心地が悪かった。

「ショッピさん」

「……何です」

「あなた、人を殺したことありますね」

空気が止まった。

ショッピの瞳が細くなる。

反射的に殺気が漏れた。

部屋の温度が下がる。

兵士として染み付いた警戒心。

――踏み込むな。

その空気を感じながらも、エーミールは静かだった。

「でも」

彼は穏やかに続ける。

「あなた、“慣れてない”」

「……は?」

「本当に慣れてる人は、そんな苦しそうな顔しませんから」

ショッピの呼吸が止まった。

苦しそう?

自分が?

そんな顔、していたのか。

「……意味分からん」

かすれた声が出る。

するとグルッペンがパンッと手を叩いた。

「よし! ショッピくん同行決定!」

「無理矢理進めんな」

トントンのツッコミが飛ぶ。

だが結局。

ショッピはwrwrd軍と共に現場へ向かうことになった。

◇◇◇

西区域廃倉庫。

敵勢力による襲撃。

規模は小さいが、人質がいるらしい。

「ショッピくんは後ろおってな」

移動中、トントンが言う。

「何でです」

「怪我されたら困る」

「俺そんな守られる側に見えます?」

「見える」

幹部全員が頷いた。

「何で???」

ショッピは本気で理解できなかった。

自分は訓練された諜報員だ。

守られる側ではない。

なのに。

「細いし」

「顔幼いし」

「放っといたら消えそう」

「徹夜続きの顔しとる」

「……」

全部図星で何も言えなかった。

そして現場へ到着した瞬間だった。

――パンッ!!

銃声。

「伏せろ!!」

トントンが叫ぶ。

だがその直後。

物陰から飛び出した敵兵が、チーノへ銃を向けた。

「っ!!」

間に合わない。

誰もがそう思った瞬間。

紫色の影が走った。

ガキンッ!!

鋭い金属音。

ショッピが敵兵の腕を蹴り上げ、銃を弾き飛ばしていた。

動きが速すぎる。

そのまま回し蹴り。

敵兵が壁へ叩きつけられる。

静寂。

全員が固まった。

ショッピだけが冷静に敵兵を拘束していた。

無駄がない。

迷いがない。

洗練されすぎた動き。

軍人。

それも、かなり上位の。

「……あ」

ショッピが顔を上げる。

やってしまった。

完全に身体が勝手に動いた。

幹部たちの視線が集まる。

沈黙。

数秒後。

「ショッピくんめっちゃ強いやん!!!!」

グルッペンが爆発した。

「そこ!?」

ショッピが思わず叫ぶ。

「いや今の見た!?」

「かっこよ!!」

「蹴り綺麗すぎるやろ!」

「え、何あれ映画?」

「待ってください反応おかしい」

ショッピは困惑した。

もっとこう、“正体を疑う”とかあるだろう。

だが。

「怪我ない!?」

トントンが真っ先に駆け寄ってくる。

「……へ?」

「被弾してへん?」

「いや、してないですけど」

「ならええ」

ほっと息を吐くトントン。

ゾムは隣でニヤニヤしていた。

「やっぱお前強いやん」

「……」

ショッピは答えられなかった。

こんな風に。

自分の強さを“怖がられなかった”のは。

初めてだった。

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