あれから、季節は何度か巡った。
世界から色が消えたような日々を送る私を、焦凍は決して見捨てなかった。
学校に行かなくなった私の元へ、彼は拒まれても、冷たくされても、ただ静かに通い続けてくれた。
彼が注いでくれる無条件の熱が、私の凍りついた心をかろうじてこの世界に繋ぎ止めていた。
私の両親は、世間から頼りにされるプロヒーローだ。
そんな二人の背中と、不器用ながらもヒーローへの道を真っ直ぐに進もうとする焦凍の姿を見つめるうちに、私の心にひとつの歪んだ決意が芽生えた。
——あの夜、彼を見殺しにした。私が、燈矢を殺したのと同じだ。
ならば私は、その罪滅ぼしのために生きるべきではないか。
誰かを救う高潔な志などない。
ただ、背負ってしまった罪の重さに耐えかねて、私はヒーローという茨の道を選んだ。
そうして迎えた、雄英高校ヒーロー科の入試当日。
個性「終幕」は物事や命の結末を強制的に視てしまうだけの力。
そこに直接的な攻撃力など微塵もない。
仮想ヴィランという鉄塊のロボットを破壊して点数を競う実技試験において、私の個性は圧倒的に不利であり、絶望的だった。
これで落ちたら、私の罪滅ぼしはそれまでだ。
焦凍の隣にいる資格も、きっとなくなる。
そんな諦め混じりの思考の最中、私の目は、またしても未来を捉えた。
発動した「終幕」それは、泥を這うような惨めな不合格ではなかった。
驚くほどに鮮明な——雄英高校の制服に身を包み、
焦凍と並んで桜の舞う並木道を歩く、
私の合格の結末だった。
変えられない未来なら、それをただ、なぞるだけ。
客観的に自分の勝利を確信した私は、試験開始の合図とともに静かに駆け出した。
結果から言えば、私のヴィラン撃破ポイントは「ゼロ」に等しかった。
ロボットを壊す手段を持たない私は、ただひたすらに、戦場で傷つき倒れていく他の受験者たちの元へと走った。
私の目には、どのビルが崩れ、誰がどこで瓦礫に挟まれて試験終了を迎えるかがすべて視えていた。
だから、最悪の結末が訪れる前に、その人物を安全な場所へと引きずり出す。
泥にまみれ、息を切らしながら、私はただ未来の逆算通りにレスキューを繰り返した。
その異様な立ち回りを、モニター越しに見つめる男がいた。
相澤は、手元の資料にある私の個性名「終幕」を凝視する。
ただロボットを壊すだけの派手な個性ならいくらでもいる。
だが、この少女の力は毛色が違った。
破滅の結末をあらかじめ視ることで、そこに至るプロセスを力技でねじ曲げる。
相澤の冷徹な、けれど確かな評価。
そうして私は、ヴィランポイントではなく、莫大な「レスキューポイント」によって、その門を叩くこととなった。
春。
合格通知を手にし、私は焦凍とともに雄英高校への通学を始めた。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!