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第8話

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2025/06/04 08:00 更新
月島 茶羽つきしま さわ
あ。
旭屋 泉あさひや いずみ
もしもしーー。
月島 茶羽つきしま さわ
久しぶり、泉。
ごめんね急に連絡しちゃって。
旭屋泉、数年前デビューしたロックバンドのボーカル兼ギターで、私の当時の教え子。1から曲の作り方を教えて、歌詞の書き方も教えた。
最初はなんの変哲もないアマチュアで、なんなら歌うことだけでも精一杯のお飾りギターだった彼が、今はそれなりに大きな会場で音楽をやっている。

性格はとにかくマイペースで、自分のペースは何をしても崩れないのにこっちのペースは散々乱してきてやり辛いこの上なかった。なにを考えているのか全くわからないし、歌詞もライブ前日まで書けずにいたなんてザラで、今振り返ってもとにかく問題児だったと思い出し、私は溜息をついた。
月島 茶羽つきしま さわ
それで、あー…ごめん、話纏まってないのに。
旭屋 泉あさひや いずみ
茶羽さんはお元気ですか。
月島 茶羽つきしま さわ
え?あ、うん。最近は調子良いよ。
外にも出られるようになってさ、すごいでしょ、一人でカフェ入れたんだ。
旭屋 泉あさひや いずみ
そっか…。
安心したような声色、昔1日中聞いていた泉の声が懐かしく聞こえてくる。

それからしばらく連絡を取っていなかった間の事や、各々の先の話を交えつつ私は本題に取り掛かった。
そういえば、から切り出しそっと暁の名前を出すと、泉の声は一段と低くなりそこで会話は途切れた。
旭屋 泉あさひや いずみ
雨那さんのこと?アキさん言ってたよ、雨那さんに会ったって。

月島 茶羽つきしま さわ
…!
あー…うん、ごめんねはっきりしなくて。
旭屋 泉あさひや いずみ
ううん、茶羽さんが言葉に詰まってるときは、薄暗い話があるときだって雨那さんが言ってたから。
PC越しからギターの弦を弾くような音が聴こえた。昔は恐る恐る弦に触れては手を震わせ、弦が切れると慌てて同じバンドのメンバーに助けてもらい、何もかもが拙かった泉が一人でギターに触れている。
ノイズキャンセルが掛かって良く聴こえないが、耳を澄ませてみれば、それは雨那が暁と別れた頃バンドで作っていた曲の一つだった。
弦の音の中に泉の鼻歌が混じって流れてくる。どんな思いでこの曲を作ったのかはわからないが、ただ一つ言えるのは、この曲は雨那のために作られた曲ということ。
旭屋 泉あさひや いずみ
こんどね、ライブするんだ。小さいライブハウスなんだけどこの曲もやるつもりって昼河くんが言ってた。
月島 茶羽つきしま さわ
そっか。
旭屋 泉あさひや いずみ
茶羽さんと、雨那さんのぶんのチケット取っておいてあるから、良かったら来て。
月島 茶羽つきしま さわ
それは、なに、雨那くんと暁を引き合わせるため?
画面越しに伝わることのない、引き摺った笑みを浮かべながら私は泉に、どっと低くなった声を浴びせた。
するとギターの音が止み、んー、と泉が唸っているような声が聞こえた。わかっている、泉はきっと善意でライブに呼んでくれている。けれど私には厭味ったらしく雨那の過去を好きに弄ばれているように感じままならなかった。
旭屋 泉あさひや いずみ
雨那さんのことはわからないけど、アキさんはなんとなくまだ引き摺ってるっていうか…バンドのみんなは気付いてないみたいだけど。
月島 茶羽つきしま さわ
「互いの存在が、互いを苦しめた。」なんて綺麗事言ってたけど、本当は違うんだろうね。本音を隠したまま数年過ごしてるんだよ。


月島 茶羽つきしま さわ
まぁ、当人じゃない私たちが話し合ったところで何も変わりはしないし、わからないままなんだけど。
それじゃあ、またね。ライブは行くから。
旭屋 泉あさひや いずみ
うん、楽しみにしてて。

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