旭屋泉、数年前デビューしたロックバンドのボーカル兼ギターで、私の当時の教え子。1から曲の作り方を教えて、歌詞の書き方も教えた。
最初はなんの変哲もないアマチュアで、なんなら歌うことだけでも精一杯のお飾りギターだった彼が、今はそれなりに大きな会場で音楽をやっている。
性格はとにかくマイペースで、自分のペースは何をしても崩れないのにこっちのペースは散々乱してきてやり辛いこの上なかった。なにを考えているのか全くわからないし、歌詞もライブ前日まで書けずにいたなんてザラで、今振り返ってもとにかく問題児だったと思い出し、私は溜息をついた。
安心したような声色、昔1日中聞いていた泉の声が懐かしく聞こえてくる。
それからしばらく連絡を取っていなかった間の事や、各々の先の話を交えつつ私は本題に取り掛かった。
そういえば、から切り出しそっと暁の名前を出すと、泉の声は一段と低くなりそこで会話は途切れた。
PC越しからギターの弦を弾くような音が聴こえた。昔は恐る恐る弦に触れては手を震わせ、弦が切れると慌てて同じバンドのメンバーに助けてもらい、何もかもが拙かった泉が一人でギターに触れている。
ノイズキャンセルが掛かって良く聴こえないが、耳を澄ませてみれば、それは雨那が暁と別れた頃バンドで作っていた曲の一つだった。
弦の音の中に泉の鼻歌が混じって流れてくる。どんな思いでこの曲を作ったのかはわからないが、ただ一つ言えるのは、この曲は雨那のために作られた曲ということ。
画面越しに伝わることのない、引き摺った笑みを浮かべながら私は泉に、どっと低くなった声を浴びせた。
するとギターの音が止み、んー、と泉が唸っているような声が聞こえた。わかっている、泉はきっと善意でライブに呼んでくれている。けれど私には厭味ったらしく雨那の過去を好きに弄ばれているように感じままならなかった。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。