【『転生したらスライムだった件 第二期』主題歌part2より】Like Flames
その瞬間だった
四人の心臓が、まるで示し合わせたように同時に跳ね上がる
ドクンッ!!
それは鼓動というより、体の奥で“何か”が目覚める音だった
次の瞬間
激痛
頭蓋の内側を無数の杭で打ち抜かれるような痛みが、四人を同時に襲った
海斗の膝が砕けるように床へ落ちる
ガンッ!!
石床に手をつき、荒く息を吐く
視界が白く明滅していた
脳が揺れている
いや、“脳そのものを書き換えられている”
胃が痙攣する
喉まで込み上げてきた熱い液体を、彼は堪えきれなかった
ぼたっ、と赤黒い血が絨毯へ落ちる
鉄臭い匂いが広がる
彼の翼が、背中で暴れるように広がった
純白だった羽根の一部が、徐々に空色へ変色していく
呼吸ができない
肺に空気を入れているはずなのに、酸素が足りない
胸の奥で心臓が異常な速度で脈打ち、血液が焼けるように熱い
その一方で、指先だけは氷のように冷たい
壁に手をついた美海の体が、びくりと痙攣する
九本の尾が、意思とは無関係に膨れ上がるように逆立った
瞳孔が開く
視界が歪む
立っている感覚がなくなり、自分が上下どちらを向いているのかさえ分からない
胃液が込み上げる
彼女は口元を押さえるが、指の隙間から赤が滲む
ぽた、ぽた、と血が落ちる
そのたびに、体内の魔力が暴走するように脈打った
耳鳴り
遠くで誰かが叫んでいるような音
違う
それは“死者の声”だった
春樹の声
みのの笑い声
椎のベースの音
菜穂のドラム
遠い記憶が、一気に脳へ流れ込んでくる
涙が止まらない
痛い
苦しい
怖い
それでも、頭の奥では別の感情が叫んでいた
……生き返らせたい
もう一回だけでいい
もう一度、「おかえり」と言いたい
慶は壁へ手をついたまま、必死に意識を繋ぎ止めていた
彼の視界には、意味不明な文字列のような魔法陣が無数に浮かんで見えている
脳が過剰な情報を処理しきれない
鼻から血が垂れる
だが、それでも彼は崩れなかった
代わりに……震えていた
全身が
細かく
制御不能なほど
呼吸が乱れる
猛烈な眠気が押し寄せていた
今ここで目を閉じれば、そのまま沈みそうになるほど深い眠気
意識が途切れかけるたび、頭の奥で“何か”が囁く
もっと壊せ
もっと呪え
もっと絶望しろ
喉の奥から、血混じりの笑いが漏れる
彼の背後で、機械魔法陣がひとりでに回転を始める
紫電が弾ける
ヘルスが低く唸り、慶を見上げた
その声には、明確な恐怖があった
主が変わってしまう
戻れなくなる
それが理解できてしまったから
そして……
あい
彼女の絶叫が、玉座の間へ響き渡る
背中の翼が一気に広がった
ゴウッ!!
熱風が吹き荒れる
黄金の羽根が舞い散り、周囲の床を焼いていく
彼女の全身の血管が、発光するように赤く浮かび上がっていた
熱い
熱い
熱い
なのに寒い
心臓だけが氷水へ沈められたみたいに冷たい
吐き気が限界を超える
大量の血が口から溢れた
絨毯へ赤が飛び散る
呼吸が乱れる
視界が揺れる
立っていられない
それでも彼女は倒れなかった
脳裏に浮かぶ
奏の笑顔
首のない両親
冷たくなった手
笑わなくなった街
涙が零れる
苦しい
怖い
今すぐ全部やめたかった
でも
それ以上に
……みんなを、このセカイに帰したい
その願いが、痛みの中心で燃えていた
フェンが一歩後ずさる
その姿は、もう“ただの神獣人”ではなかった
魔力が変質している
存在そのものが、別の何かへ塗り替わっていく
畏怖
それは確かに、畏怖だった
言葉は最後まで続かなかった
四人全員に、同じ感覚が押し寄せる
激痛
吐き気
眩暈
痙攣
呼吸困難
意識が沈むほどの睡魔
そして……
“変わっていく”感覚
獣人としての限界が壊れていく
肉体も、魂も、魔力も
別の存在へ
だが四人は、本能で理解していた
この先にあるのは、力だけじゃない
祝福だ
魔王になった時に与えられる、“奇跡”
死者を呼び戻す可能性
だから
この地獄を、耐える
たとえ人でなくなっても
たとえ戻れなくなっても
もう一度だけ……
大切な人たちへ、「おかえり」を言うために
声は、ほとんど息だった
途切れ途切れで、かすれていて、今にも消えてしまいそうなほど弱い
それでも、その言葉だけははっきりしていた
帰りたい
あの街へ
みんなが待っている場所へ
あいの意識は、もう深い泥の底へ沈みかけていた
視界はぼやけ、音も遠い
心臓の鼓動だけが異様に大きく聞こえる
ドクン……
ドクン……
そのたびに、全身の血が灼けるように熱くなる
指先は震え、感覚も曖昧だった
それでも彼女は、必死にフェンの毛を掴んでいた
小さな銀狼の体温だけが、今の彼女を現実へ繋ぎ止めている
フェンの耳が、ぴくりと動く
オッドアイの瞳が静かに細められた
その声は低く、静かだった
だが、その奥には決して折れない意志が宿っている
次の瞬間
銀色の魔力が、フェンの全身から爆発するように溢れ出した
ゴウッ!!
風圧が玉座の間を揺らす
小さな狼だった体が、一瞬で膨れ上がる
骨が軋む音
筋肉が膨張する音
銀の毛並みが月光を弾き、巨大な狼へと変貌していく
その姿は、もはや“仔狼”ではない
古の神話に現れる神獣そのものだった
鋭い牙
床を砕くほど太い四肢
巨大な尾
そして、主を守るためだけに存在するような、圧倒的な威厳
フェンは慎重に頭を下げる
まるで、壊れ物を扱うように
彼はそっと、あいを背中へ乗せた
炎に焼かれ、魔王化に蝕まれた体は軽かった
あまりにも
フェンの瞳が、一瞬だけ揺れる
ただ静かに、主が落ちないよう体勢を整えた
その姿には、獣の荒々しさよりも……長年仕え続けた騎士や執事のような気品があった
同じ頃
海斗の隣でも、炎が渦を巻いていた
赤い魔力が爆ぜ、小柄だった炎狼が巨大化する
燃える鬣を持つ巨大なフェンリル
フレアは苦しそうに息をする海斗を背へ乗せると、鼻先でそっと彼の肩を押した
意識の薄れた声
妹の名前だけを、彼は何度も繰り返していた
北側では、リルが美海を優しく咥えていた
氷色の毛並みを持つ巨大狼
その牙は本来なら獲物を裂くものだが、今は驚くほど繊細に、美海の服だけを掴んでいる
美海は返事をしない
ただ、涙だけが閉じた瞼から流れ続けていた
西側
ヘルスは慶を背負っていた
雷光を帯びた巨大狼の背で、慶は薄く目を開く
珍しく強い口調だった
慶の呼吸は浅い
今にも止まりそうなほど弱い
四匹のフェンリルたちが、静かに互いを見る
言葉はいらなかった
全員が理解している
主たちは、もう元には戻れない場所へ踏み込んだ
それでも
彼らは、その願いのために進んだのだ
死んだ大切な人たちを、もう一度抱き締めるために
その時
天井の崩れた玉座の間へ、淡い光が降り注いだ
月光とは違う
もっと柔らかく、もっと温かな光
それはまるで、“祝福”そのものだった
光が四人と四匹を包み込む
景色が、滲む
空間が歪む
意識が、沈む
炎でもない
熱でもない
誰かに抱き締められているみたいな温度だった
それが……
彼女が最後に感じたものだった
























編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。