いよいよわからない。目の前の純粋無垢な少女が何を言いたいのか。何を問いただしているのか。イオにはわかるはずもない。ただ困惑しながら、彼女の言葉が心を突き刺すのを黙ってみていることしかできない。
アネットは真っ黒な目を見開き、ぐいっとイオの腕を強く引っ張る。イオの身体は前方へよろめいたかと思うと、襟元をがっとアネットに掴まれ、静止させられた。気づけばアネットと至近距離。少女の中に宿る邪悪が、目の前の邪魔者を蝕み殺そうとしている。
アネットは笑っている。が、目の奥は邪悪そのものだ。その底しれぬ恐怖を、イオは真っ向から浴びさせられている。反論も、抵抗も、逃走も、許さない。そんな重苦しくピリ付いた空気が漂う。指一本たりとも動かせない。動かしたら、殺される。
少女は突如ころっと態度を変え、ぱっとイオの襟元を離した。どさっと床に転ぶ。が、痛みよりも先に来たのは安堵。ウサギがライオンの気まぐれに逃がされたようなもの。少しでも判断を間違えれば危なかった。その感覚が心臓を急かし、ばくばくと動かす。
少女は愛らしい笑顔を振りまき、くるりと後ろを向けそのまま部屋を去っていった。灰桃髪の揺れるツインテールが完全に見えなくなるまで、イオは動けないでいた。彼女が去り、数十秒の時を有したあと、やっと起き上がる。
冷や汗がまだ止まらない。のどが渇きを訴えている。震える手で食器棚からグラスを取り出し、水を注いで一気に飲み干す。それでも、まだ落ち着かない。それくらい"あれ"はやばかった。
触れてはいけない絶対的な恐怖。それと楽しげに笑い合う少女たち。その光景すらおぞましい。
意味のないことを考えても仕方ない。その疑問は頭の奥深くに投げ捨てることとする。今は、今後アネットとどう接するかと、アネットに言い渡された『警告』のほうが問題だ。
「その"武器"自体が___」
アネットの声が頭に響く。途端に今度は熱く燃え盛る怒気が溢れ出てきた。グラスをシンクに置く音が大きくなる。自信のこめかみ部分を掴みがしがしとかく。それでも収まらない強い感情。











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。