第19話

Episode.18
65
2025/05/18 01:25 更新
アネット
その"武器"自体が___見当外れです
イオ
は、
いよいよわからない。目の前の純粋無垢な少女が何を言いたいのか。何を問いただしているのか。イオにはわかるはずもない。ただ困惑しながら、彼女の言葉が心を突き刺すのを黙ってみていることしかできない。
アネット
お前がどーなろうと、
俺様には関係ありませんっ
アネット
お前の価値観も、絶望も、生死も、
俺様はきょーみすらありませんっ
イオ
……………
アネット
けどっ、お前が見当違いにもほどがある
武器を振り回してるのは__
アネットは真っ黒な目を見開き、ぐいっとイオの腕を強く引っ張る。イオの身体は前方へよろめいたかと思うと、襟元をがっとアネットに掴まれ、静止させられた。気づけばアネットと至近距離。少女の中に宿る邪悪が、目の前の邪魔者を蝕み殺そうとしている。
アネット
すっごく…………不愉快です
イオ
っ……………
アネットは笑っている。が、目の奥は邪悪そのものだ。その底しれぬ恐怖を、イオは真っ向から浴びさせられている。反論も、抵抗も、逃走も、許さない。そんな重苦しくピリ付いた空気が漂う。指一本たりとも動かせない。動かしたら、殺される。
アネット
ですがっ。俺様はやさしいので、
警告はこのくらいにしといてやりますっ
イオ
っ………ぁ……
少女は突如ころっと態度を変え、ぱっとイオの襟元を離した。どさっと床に転ぶ。が、痛みよりも先に来たのは安堵。ウサギがライオンの気まぐれに逃がされたようなもの。少しでも判断を間違えれば危なかった。その感覚が心臓を急かし、ばくばくと動かす。
アネット
それではっ。俺様いそがしーので
アネット
また、遊びましょうねっ
少女は愛らしい笑顔を振りまき、くるりと後ろを向けそのまま部屋を去っていった。灰桃髪の揺れるツインテールが完全に見えなくなるまで、イオは動けないでいた。彼女が去り、数十秒の時を有したあと、やっと起き上がる。
イオ
……………………
イオ
(…………死ぬかと、思った)
イオ
(気分屋で自己中心的とは聞いてたけど、
 まさか………こんな……)
冷や汗がまだ止まらない。のどが渇きを訴えている。震える手で食器棚からグラスを取り出し、水を注いで一気に飲み干す。それでも、まだ落ち着かない。それくらい"あれ"はやばかった。
イオ
あれと、『灯』はいっしょに………
イオ
………おっかないな
触れてはいけない絶対的な恐怖。それと楽しげに笑い合う少女たち。その光景すらおぞましい。
イオ
(いや、もしかしたら知らないのか?。
 アネットの邪悪さを)
イオ
(でも………なんとなく知ってそうな
 雰囲気はあった)
イオ
(なら………知ってて一緒にいるのか?)
イオ
………………はぁ
意味のないことを考えても仕方ない。その疑問は頭の奥深くに投げ捨てることとする。今は、今後アネットとどう接するかと、アネットに言い渡された『警告』のほうが問題だ。
イオ
警告、ね
イオ
あれは忠告なんかじゃなかった。
文字通り、警告
「その"武器"自体が___」
イオ
っ………………くそ
イオ
よくも馬鹿に、してくれたな
アネットの声が頭に響く。途端に今度は熱く燃え盛る怒気が溢れ出てきた。グラスをシンクに置く音が大きくなる。自信のこめかみ部分を掴みがしがしとかく。それでも収まらない強い感情。
イオ
あぁ……………もう……
イオ
モニカも、アネットも………散々俺を…………
イオ
………絶対、見返してやる

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