第44話

桃奈の体調不良
773
2025/09/01 07:50 更新








リビングの照明がぽつりとひとつ、

黄色い灯を落としていた。



外はまだ夕方だけど、部屋の中は静かで、

まるで夜みたいな空気だった。



いま宿舎には、

ころねえとあなたとリーダーしか居ないから。



キッチンに立っているころねえが、

手際よく湯気の立つおかゆを器に移す。



その手元を見ながら、

私はひざに置いたタオルをぎゅっと握った。



これ持っていってくれる?
私、ちょっとメール返さなきゃで



心さんは、器を私に手渡してから、

目だけで「お願いね」と言った。



私は小さくうなずいて、器を受け取る。



あなた
ありがと。
ころねえも、忙しい中やってくれて…
いいのいいの!
あの子がしんどいときくらい、
できることはするよ!
リーダーとしていつも頼ってばっかだし。



そう言って、ころねえはいつもより少しだけ優しい笑みをくれた。








あなた
リーダー、起きてる?
あなた
あなたです。入ってもいいですか?



返事はないけど、静かな気配が返ってくる。



そっとドアを開けると、

布団の中で丸くなっている桃菜ちゃんの背中が見えた。



肌寒そうに肩が少しだけ揺れていて、

それを見て私の胸がぎゅっとなる。


あなた
おかゆ、できたよ。
……ちょっとだけ食べてみない?



ゆっくり振り返った桃菜ちゃんの目元は、

少し赤くて、熱っぽい。


でも、どこかで眠れていないような、

乾いた光も宿っていた。


桃奈
……あなた、



かすれた声。


でも、ちゃんと名前を呼んでくれるのが、

リーダーらしい。


あなた
起こしてごめんね。
でも、何も食べないのは…



そう言って器を渡すと、
桃菜ちゃんは小さく笑ってから、体を起こした。


あなた
ころねぇ、ちょっとだけ仕事あるって。
ほんとはもっと見てたいって言ってたけど、あなたに任せてくれたの
桃奈
ありがと。ここ氏、優しいよね。
あの子、ほんと変わらない



桃菜ちゃんの口から「ここ氏」って名前が自然に出てくるのを聞いて、

 “ やっぱり特別なんだな ”

と思った。



rebloomというケミの深さは、

特別なんだと思う。


桃奈
ねぇ、あなた
あなた
ん?
桃奈
…あなたってさ、
前から思ってたけど、気づいてるよね。
あなた
なにを?
桃奈
その、…
私があんまり寝れてないこととか



少し黙った。


あなた
んー、
桃奈
ホントのこと言って?



その上目遣いずるい


あなた
まあ、なんとなく?
桃奈
そっか。
……やっぱり、そうだよね。
なんか、見られてる感じしてたもん。
嬉しいけど、ちょっと悔しい


ももなちゃんが少し照れくさそうに笑う。

あなた
……そういうの、ちゃんと誰かに言ってくれていいのに
桃奈
言ったら、リーダーとして格好つかないでしょ
あなた
そんなことないよ!
桃奈
でもあなただって本音隠すタイプでしょ?笑
あなた
それについては無回答で、笑



少し黙ってから、
桃菜ちゃんが私の方に体を預けるように寄った。


それは、ほんの一瞬。すぐに戻る。


でも、リーダーがそんなふうにしてくれるのは、
滅多にないこと。


心から、信頼されているんだってわかる距離。


















あなた
…私は、ももなちゃんって呼んでるよ。
リーダーじゃない時のこと、ちゃんと見てる
桃奈
…あなたって、ほんと、無理してても顔に出さないよね。

……なんでだろ、今ふっと思い出したんだけど、




私は一瞬だけ、心が跳ねた。

でも、平静を装う。


あなた
なんの、こと?
桃奈
…笑
桃奈
ちょっと動揺してるでしょ
あなた
うん、笑
あなた
まあでも思い出しちゃったなら、それは演技が甘かったってことかな
桃奈
なんのこと言ってるの?笑
あなた
あなたから言ったら色々バレそうだからやだ笑
桃奈
そんな何個も隠し事してんの!?笑








あなた
今は「リーダー」じゃなくて「桃菜ちゃん」なんだから、
あなた
頼ってね?
あなた
今じゃなくても。
あなた
あなたじゃなくても。



しばらく、ふたりの沈黙があった。


その間、私は器のスプーンをそっと持ち上げ、
冷ましながら桃菜ちゃんに差し出す。


その小さな仕草だけで、リーダーはふわっと笑った。


眠そうに、でも穏やかな顔で。


私の行動で、こんな顔をしてくれるなら。
それだけで、今日一日分の疲れが、静かに溶けていく気がした。







続く


プリ小説オーディオドラマ