第10話

hskw┊星詠みとポラリス
82
2026/03/13 09:00 更新



まだ暦も無いような時代
星や月を詠み、空を語る者は重要な役割だ


なーんて、皇帝サマは威張って民に語りかけるけど、本当はそんな大層なものじゃない。寧ろ気味が悪いと隔離されている状態。酷いよね、と語る相手もいない高い塔の上の方。世話をしに来てくれる人を除いて、他人との関わりは一切ない。
自分が“星詠み”だという自覚もなく、それなのに幼い頃から家族と引き離されて過ごしている。

だから、幻覚だとしても嬉しかった。


『星川、ちゃん』
「呼びやすいようにしていいよ〜」


ケラケラと明るく笑う彼女は、星の精霊だという。
星詠みとして幽閉されてから、実際はその前からだけど、そんな存在に初めて出会った。本当にいたんだ、と驚くと同時に、自分が隔離される理由が強まった気がして寂しくもある。


「あなたちゃんはなんで1人なの?」
『星詠みだからだって〜』
「星詠みは1人になるの?」
『うーん…何か怖いみたい』


私の身の上話は普通であれば、「お労しい」「気の毒だ」と大袈裟なまでの悲壮感漂う視線が刺さるのだろうが、人間というものに疎い彼女は違っていた。
ただ、そういうものとして認識するに過ぎなかった。私としても、そちらの方がありがたい。
勝手に隔離して、1人にして、勝手に憐れむなんて居心地が悪くて仕方がないのだ。

隔離されている本人として、大衆の心情など分からないのだが、まぁ大体は恐怖だろうと首を傾げながら答えた。目の前の彼女は私をじっと見つめながら然程興味無さげに「ふーん」と相槌。
異端とも思えるこの空間が、何よりも居心地が良くて好きだった。







「あなたちゃんはさ、そーゆーヒトの事どう思ってるの?」


心底不思議そうに、純粋な目で尋ねてくる。これはどう答えたらいいのだろうか。実の所、私は皇帝サマと世話してくれる人と、それから幼い頃の家族や友人。それだけの人間関係しかないのだ。実際に悪意などをぶつける人と対面したことは無い。世話係が話してくれるその情報が、唯一のものだった。だからまぁ、又聞きというもの。私が本当に哀れまれているかは分からないけれど、あの人が言うにはそうらしい。


「……じゃあ、いつが幸せ?」

『さ、サラちゃんと話してる時』


自分で言っておきながら、名前を呼ぶという行為に若干照れる。考えたけど、幸せを感じる事なんて最近現れた彼女に全て持っていかれてしまったも同然。幼少期は幸せだっただろうが、無い物ねだりになるので諦めて現在の本音を素直に告げた。


「そっかぁ」


夜風に攫われそうになる彼女にうっとりと微笑まれてしまえば、言動も思考も全てが止まる。
星の輝きよりも眩しくて、触れれば太陽よりも熱そうな、嬉しさを詰め込んだ笑顔。
その真意には、気付けなかった。






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グラグラと、空間が揺れる感覚で目が覚める。気分がいいとは言えない寝起きに、混乱しながら状況把握を求めた。
普段からすることが無い私は、星詠みとして星の出る夜に活動していることが多い。昼間は寝ているのだ。夕暮れに起きて、朝方に布団に潜る。その生活で何年も暮らしていた。

だがこの日はまだ太陽がまだ落ちきっていない時間帯、普段 私が起きる少し前の時間帯だった。世話してくれる人が何かしてる訳でもなさそう。そう思いながら、光になれてきた目を唯一付いている窓の外に向ける。
久々にまともに見た街の景色は、平和そうに見えた。高い塔の上、空に近い場所にいる自分と、街にいる彼らが全く別の生き物のようで面白い。なんて思っていると、再び揺れを感じた。壁がパラパラと音を立てているのを見ると、これは塔自体が揺れているようだ。視線を真下に向ければ、暴動を起こしているような市民が見えた。


『っ、なんで!』


私は何もしてない。そう叫びたかった。
寧ろ被害者だ、助けてくれ、と。

でもそう叫んだところで何も変わらないだろう。この距離じゃ声は届かないし、届いたところで信じてもらえるかも分からない。誰か助けに来てくれようとしても、皇帝の兵に妨害されて、刑にかけられるのが目に見える。私が我慢すればいいだけの問題で、何の関わりもない人に罪を着せる気はなかった。


「ねぇ」


頭上から声が降ってくる。
見上げれば、何時もよりも少し光の薄いサラちゃんがいた。星がまだ出ていないからか、向こう側が透けて見える。


「あーゆー事されても、まだここに居たい?」
『……サラちゃん?』
「星川と一緒に来て欲しいの。あなたちゃんがここで苦しんでるの、星川見たくないよ!」


握りしめていた手を包まれる感覚がある。精霊で、まだ実体になりきっていないのに感じ取れるらしい。手から、腕から、辿った先の顔は、悲痛に歪んでいた。これが世話係の人の言っていた“哀れみ”なのかと考えるけど、サラちゃんがそんな嫌がる事するわけない。これはきっと、心を痛めてくれた証。

そう思って口を開いた。


『私も一緒にいたいよ、でもいきなり行ったら怒られちゃう』


怒られるのは私だけじゃない。大事な大事な星詠みを連れ出したとなれば、きっとサラちゃんだって怒られる。それだけは嫌だった。


「星川のこと?大丈夫だよ、星川 精霊だから」
『でも……』
「あなたちゃんが来てくれたら、星川もっと強くなれるの!それでもダメ?」


拒否する気はないのに渋る言葉を紡げば、潤んだ瞳で懇願された。視界の背景も段々と薄暗く闇が深まり、下に集っていた人たちも散り散りに帰っていく。段々と静まる夜の中で、私とサラちゃんの2人だけがうっすら光っているようだった。


「……じゃあ、そのコウテイサマに話しておいて?」
『話すの?』
「あなたちゃんは星川と一緒になるから邪魔しちゃダメだよって言えば、あなたちゃん来てくれるでしょ?」
『うーん、まぁ』
「約束ね!」


寂しそうに眉を顰めたかと思えば、元気に提案をして約束!と小指を差し出される。
それに自分の小指を絡めてから、もう一度空を見れば、既に彼女の姿は無く、ピカピカと星が輝いているばかり。

……サラちゃんと一緒に過ごしたいのが本音だけど、“大人の世界”と言うやつがそんな簡単じゃないことも承知している。星詠みの役目をそう簡単に放置する訳にもいかないし、そもそも一緒になるってどういうことだ。考えたくても考えるべき事が多すぎて上手くまとまらない。
取り敢えず、世話係の人に言伝を頼めば皇帝に伝わるかな。それで約束叶えた事になると良いんだけど。うーんと首を傾げながら、滅多に使って来なかった白紙の上に、伝える内容などを書き出した。
















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「おーきて」


少しの眩しさと、頬を擦られる感覚に意識が浮上する。ここはどこだろうか、過ごしていた塔は、こんなにも眩しくは無いはずだ。

そんなことをぼんやりと考えながら瞼を持ち上げた。未だ眠いと訴える身体を無理に起こして、自分の状況を把握しようと務める。


『サラちゃん?』


何時もよりも輝く綺麗な髪と、神秘的な雰囲気。トロリと蕩けたような色の違う双眼は、私をしっかりと捉えている。


「ふふっ、やぁっと起きた。おはよう、寝坊助さん」

『…おはよう、ここどこ?』
「ん〜、星川のお家?」
『はぇ』


説明を求めても、返ってくるのは疑問符付きの言葉。サラちゃんのお家ってことは…あの言伝上手くいったってことかな。


「約束守ってくれてありがとね、あなたちゃん」
『ううん、サラちゃんの為だもん』
「っ!や〜もう一生星川のものにしたい」
『??』


ぎゅ〜っと強く抱きしめられて、困惑しながらも背中に手を回す。サラちゃんのもの…ずっと一緒に暮らしたら、私もそうなれるのかな。
まだポヤーっとする頭をそのままに、大好きな子と共に過ごせる幸せを噛み締めていた。


あれ、そういえばサラちゃんって星の精霊で…精霊は、どこに住んでるんだっけ……




「……ずっと一緒にいようね、大好きなんでしょ?」




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