また新たな魔法陣を生成しながらお兄ちゃんがうんざりしたように呟く。
俺は特に返答もせず動き出す。
一人だけみんなと距離を取り、孤立した俺を見てお兄ちゃんが唇の端を上げる。
煽るような言葉と共に俺の方に雷魔法の魔法陣を生成する。
一人を狙う方がやりやすいのか、俺を中心とした半径5mほどの魔法陣が足元に浮き出る。
普通に走ったら、起動までに間に合わないよね。
……大丈夫。
魔法陣が発光し起動する。
と同時に、足元に土の地面が生成される。
雷魔法はMENの作った防御壁に阻まれて俺に届くことはなかった。
その隙を狙って、ドズルさんが手に魔力を溜める。
超高温の爆発が辺りを包む。
お兄ちゃんが咄嗟に防御魔法を展開する。
辺り一帯に霧を発生させて視界を奪う。
ぼんさんの一番得意な魔法だ。
霧に直接の攻撃力はないため焦りはないものの、
訝しげな声が聞こえてくる。
濃霧のせいで表情は見えない。
ま、これじゃ こっちの意図が分かんないよね。
この魔法は他の魔法で打ち消すことが出来ない。
だから、俺らも相手の位置がわからなくなる。
………打ち消すことは、ね。
俺は魔力探知でお兄ちゃんの位置を探る。
……いた。
お兄ちゃんは、魔力探知なんて出来ないでしょ?
俺と同じように魔力探知で位置を確認したおらふくんが魔法を放つ。
《icicle・rose》……地面から薔薇を芽生えさせ、対象の体に巻きつき動きを封じる魔法。
まぁ、実際動きを止められるのは1〜2秒くらいだろう。
魔法の性質を理解されたら、速攻で対抗魔法を使うだろうし。
でも。
それだけあれば、十分だよ。
俺は剣を構える。
魔力残量からして、魔法を使えるのは一回のみ。
聖書を出せるほどの余裕はないけど………
一つだけ、聖書を出さずに高度魔法を向かう方法が
ある。
"魔法陣を頭の中で正確に描けること"
この条件さえ満たしていれば、聖書を開かずとも魔法を使える。
このことに気づいたのは、つい最近だ。
その時に、一つだけ魔法陣を覚えたんだよね。
それが、こんなところで役に立つとは思ってなかったけど………
俺は目を閉じて頭の中に鮮明に魔法陣を思い描く。
手のひらを通じて剣に魔力が流れ込んでいく。
最後に、呪文を唱えれば発動する。
これを外したら、打開策はもうないだろう。
それどころか、お兄ちゃんの至近距離に潜り込むためカウンターで殺される可能性が高い。
でも、やるしかない。
………行こう。
刀身が黄金色の光に包まれる。
ふと体が軽くなるような感覚が訪れる。
《speed star》……超高度支援魔法。
片手直剣使いのみ使用可能。
剣の攻撃力と術者の俊敏性を格段に上昇させる。
消費魔力は少ないものの、複雑な魔法陣が必要で、
効果時間も5秒ほどと短い。
でも…
この状況なら、問題ない。
俺は地面を強く蹴る。
すぐお兄ちゃんの背中が見えた。
俺にはまだ気づいていない。
剣先が背に触れる直前、ようやく俺に気がつき振り向いたお兄ちゃんと目が合った。
俺よりも少し深い緑色の瞳が驚いたように見開かれる。
……これで、終わりだよ。
何の防壁に阻まれることもなく、俺の剣の切先がお兄ちゃんの心臓を貫いた。




















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!