赤 side
なに?と聞きながら、彼の視線は目の前のスマホ。
スマホに負ける彼女、か……。
へらっと軽く笑ってみせる。
たった一言。
声のトーンは落ち着いてて、視線は完全に目の前の仕事。
それは、りうらと会話をするのが面倒臭いのか?と錯覚するほど。
……寂しいな。
何か急用なのか、椅子にかけてあった上着を腕にかけ、最低限のものを持って玄関の方へと行ってしまった。
その時ですら、彼と視線が合うことはなくて。
スマホのカレンダーのアプリを開く。
今日の日付の欄には、『ないくんとりうらの3年記念』と記されている。
3年記念も忘れないようにって、2年記念の時に書いておいたもの。
ないくんが今日という日を忘れている、とは考えがたいが、何か記念日らしい言動は見られない。
何しろ、彼女を置いて会社に向かってしまったんだから。
3年も付き合ってたら、冷め期もあると思う。
でも、りうらはそんな事なくて。
言葉には出来ないけど、ずっと好きで、大好きで。
……まぁ、男同士の恋愛なんて、そんな簡単にいかない。
ないくんの気持ちが、分からない。
最近、いつキスした?ハグした?えっちした?
恋人らしいこと、最近は全然してない。
寂しい。
今日くらい、恋人らしいことしたいのに、
重たい瞼を開けると、外は暗くなっていた。
あの後、りうらはソファーで寝てしまったらしい。
……あれ、りうら……
天井をぼんやりと見つめていたら、視界の端に見慣れた顔が覗いた。
寝起きの体をゆっくりと起こす。
ふと、ないくんの顔を見て目元があつくなった。
ないくんを見た嬉しさと、3年記念にも関わらず1人にされていた悲しさと、ないくんとの距離感の寂しさと……
……好きだ。
声も、愛おしそうに見つめてくる目も、
ソファーに座っているりうらの目線に合わせてくれる所も、
そっと置かれている手も、
ちょっときつい香水の匂いも
ぜんぶ。
でも、3年記念は、覚えててほしかったな、w
かけてある時計を見て、こんなに寝てたんだ、と自覚する。
慌ててソファーから立ち上がりキッチンに向かおうと視線を向ける。
机には、すでにご飯が湯気を立てて置かれていた。
ちょっと不格好なロールキャベツに、
暖かそうなコンソメスープ。
小皿に盛られた副菜に、白いご飯。
驚きのあまり、彼に聞く。
料理をしているイメージがない、と言ったら失礼かもしれないが、この3年間、ご飯はずっとりうらが作ってきた。
ないくんは、どこか照れくさそうに言う。
彼の口から出た「3年記念日」という言葉を聞いた瞬間、あつくなっていた目元から涙が溢れ出てしまった。
突然泣き出したりうらに、ないくんは慌ててティッシュを渡す。
いや、渡すと言うより顔に押し付けてきた。
優しく涙を拭き取ってくれる彼の手に、自分の手を重ねる。
……覚えててくれてたんだ、。
言いながら涙がまた溢れ出てきて、服の袖で拭う。
ないくんは焦ったようにりうらの肩を掴んでいる。
うそ、?
目線を逸らしながら、ないくんはひとつの箱を取り出した。
ほんのりと耳が赤くなっているように見える。
そう言われ、貰った箱を開ける。
チラリと見えたそれは、電気に照らされてキラッと光った。
指輪。
それは都合のいい解釈として、婚約指輪のように見えて、再び泣きそうになる。
朝からスマホから目を離さなかった理由。
……全部、このため、?
ぎゅっ、と大きな体に包まれる。
ぎゅうっと力を込めて抱き返す。
この温もりから離れたくない。離して欲しくない、
大好き。
そっと体を離される。
ないくんは机に置いた指輪の入った箱を手に取り、指輪を取り出す。
そして、目の前で片膝をついて、りうらを見つめる。
やば、絶対顔真っ赤。
軽く笑って照れ隠しをするけど、多分今泣きそうにもなってるし、恥ずかしくて変な顔してるし、にやけそうで……顔やばいと思う。
お互いに照れ隠しのように軽く笑い合う。
ないくんの顔は真っ赤。りうらも、同じくらい赤いと思う。
指輪を差し出すないくんの前に、そっと手を出す。
今は、日本で同性同士の結婚はできない。
でも、恋人として一緒にいればいい。
式は挙げられなくても、りうらたちは立派な恋人同士。
ないくんはその返事を聞いて、嬉しそうに微笑む。
そして、りうらの指を優しくとり、指輪を薬指にはめた。
そう言いながら、指輪をはめた指にキスされる。
勢いよくないくんに飛び込む。
ないくんはそんな俺の体を受け止めてくれた。
その勢いで床に座り込む。
なんだか面白くって、二人で笑い合う。
沢山笑いあった後、目を合わせる。
自然と視線はお互いに向いていて、目を離せなくなっていた。
ないくんは目を細め、顔をゆっくり近づけてくる。
その熱を持った瞳には、既に何かを期待するりうらの顔が映っていた。
そっとまぶたを閉じる。
時刻はとっくに次の日になっていた。
もう、3年目の1日目がスタートしている。
次は、4年目だね。
お互いの唇が触れる。
気づけばないくんの身体が覆い被さっていて……
その日、お互いの唇がなかなか離れることはなかった。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。