バイキンレディ登場回の日の夜
ジムへ行くと既に表田さんがいたので、ひとしきり体を動かしたあと一緒に帰ることになった
ジムに申し込む時、他のジムと少し迷った
そっちの方が更衣室のロッカーが大きかったけど、結局近さには勝てなくて表田さんと同じところに申し込んだのだ
帰っている途中、違和感を感じる
誰かがついてきている気がするのだ
スマホのインカメで後ろの様子を伺う
男性がひとり、物陰に隠れつつこちらの様子を見ている
動きがものすっごく怪しい
振り返り、男性の元へ向かう
男性は慌てて逃げようとしたが、すぐに捕まえることができた
アモンさんだった
呆れつつ尋ねると、アモンさんは項垂れた
熱く語るアモンさんにふたりで冷めた目線を送りつつ、彼を解放してあげた
全く……この前の件の変質者かと思った
アモンさんは去っていき、またふたりで家路を進む
表田さんは確かに思考がたまにぶっ飛んだり、変な方向に病んだり、絵が独特すぎたり、表情が死んでたりして怖いと思われるかもしれない
だけど、こうやって褒めてくれたりするし、たまに冗談も言うし、安全を心配して一緒に帰ってくれたりしてくれるいい先輩だと思う
あとこれは余談だけど、表田さんが筋トレしてる姿を観察するようになってから趣味の漫画の絵が上手くなった気がする
…………医学書の勉強もなんとなくやる気出るし
表田さんが話している途中だったが、私はそれを止めた
背後から誰かが走ってくる音がする
振り返ると包丁を持った男がこちらに向かっていた
だけど構えが素人丸出しだ
怖くないと言えば嘘になるが、制圧は簡単そうだった
私は犯人を迎え撃つために一歩前に出ようとする
その時、表田さんに引っ張られた
突然のことだったので私はバランスを崩して表田さんにそのまま引き寄せられ、抱きとめられた
犯人の初撃は避けられた
犯人はまたこちらに向かってくる
守ろうとしてくれた表田さんには申し訳ないけど、私は彼の腕から抜け出して犯人に向かって行った
突進する犯人の勢いを利用して地面に引き倒し、そのまま手首を捻りあげて包丁を落とさせる
犯人を取り押さえ、私は叫んだ
犯人は私よりだいぶ大柄で、さすがに手を離せない
包丁を蹴って遠くへやった表田さんが押さえ込むのを代わってくれたので、私は慌ててポケットからスマホを出して警察に通報した
電話を切ってから数分で警察は来たが、犯人はその間もずっと「俺のこと好きなんだろ!」とか「裏切り者!」とか叫んでいた
ちなみに私は犯人の顔も名前も知らない
ずっとこっちを向いて喚いてるのが怖かった
その後、私と表田さんも警察に話を聞かれた
そこまで長くはかからなかったが、巻き込んでしまったことで表田さんに対して申し訳なさでいっぱいになった
「もう帰って大丈夫ですよ」と言われ、ふたりで家路に着く
私はすぐに表田さんに頭を下げた
その言葉で安心したのか、目から涙が溢れてきた
迷惑になるから止めようと思っても止まってくれない
表田さんは少しの間アタフタした
そして
と尋ねた
私は泣いているまま頷いた
すると、頭の上に大きな手がポンと置かれる
その不器用な優しさが嬉しかった












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!