第15話

誰やねん
52
2020/12/10 14:13
まず概要だけ述べさせてもらうと、直樹の友達が来た。とはいってもどうやら俺と同じ学校のしかも同級生のようで、随分と直樹と仲がいい。俺は高校に入学してきてから人とほとんど関わらないほどの人脈なので、もちろん知らない。
宮近 虎之助
宮近 虎之助
いや〜すまねぇな、こんな悪〜いタイミングで来てしもて。
東 直樹
東 直樹
いやいや気にすんなって。つか何で来たの?
いや気になるわ阿呆。……違うそうじゃない。
宮近 虎之助
宮近 虎之助
んー直樹に渡したいものがあるっつってセンセがこの封筒渡してきてよ、んで他に家近そうな人もおらんかったからわざわざ来たっちゅうわけよ。
東 直樹
東 直樹
あーそっか、確かに学区は違えど駅一緒だもんな。まぁ、サンキューな。
宮近 虎之助
宮近 虎之助
おう。……ん?
虎ちゃんと呼ばれたその友達は、隅で縮こまってる俺を見ると、躊躇なく話しかけてきた。
宮近 虎之助
宮近 虎之助
あー……確か君も俺と同じ学校なんよな?
いや〜…これ言ったらあかんのかもしれへんけど……
宮近 虎之助
宮近 虎之助
誰やねん!
宮近 虎之助
宮近 虎之助
って感じや!
あっはっは〜!、とこの色素の薄い男はまたカラカラと笑う。申し訳ないけど見るからに頭の悪そうな男が、よくこの高校に入れたなと感じてしまう。
東 直樹
東 直樹
ちょっ虎ちゃんそれはさすがに迷惑だろ……
宮近 虎之助
宮近 虎之助
いいやんけ別に!これから仲良くなろーっちゅう話よ!
宮近 虎之助
宮近 虎之助
俺は宮近虎之助。虎ちゃんって言うてな〜。
檜谷 裕二
檜谷 裕二
お、俺は檜谷裕二。よ、よろしく。
宮近 虎之助
宮近 虎之助
もーっ裕ちゃんそんなに固くなるなってよ〜!
早速ちゃん付け。直樹より明るい陽キャの光が陰キャを消し炭にするがごとく、俺の魂を吹き飛ばした。
それに会ったことないけどまるで大阪のおばちゃんのように、肩をべしべしと叩く。悪意は無いのだろうが、痛い。
東 直樹
東 直樹
虎ちゃん!裕は今一時退院中で……
東 直樹
東 直樹
あっ
宮近 虎之助
宮近 虎之助
あ…もしかして、直樹がこの前言ってた人って……
宮近 虎之助
宮近 虎之助
ほ〜〜〜〜ん、そういうことね〜
東 直樹
東 直樹
なっバカッ!そっそそそういう関係じゃねえよ!ただの幼なじみ!な!?
顔が真っ赤っか、おまけに身体中から汗が吹き出しているのがここから見ても一目瞭然だ。
そんなに顔を赤くしたらそりゃバレるに決まってるぞ馬鹿。まあこういう単純なところも嫌いではないのだが。
檜谷 裕二
檜谷 裕二
うーん、まあな。正直煮え切らない状態だけど。
東 直樹
東 直樹
ちょ!裕まで言うなって!
宮近 虎之助
宮近 虎之助
ふーん。
バレたのが恥ずかしいのか終始落ち着かない直樹とは反対に、ふたりの秘密を知った虎之助は意外にも薄い反応だった。
東 直樹
東 直樹
思ったより反応薄いな
宮近 虎之助
宮近 虎之助
いや、別に俺そういう人気にしてないし…
宮近 虎之助
宮近 虎之助
つか、正直人の恋愛とかどうでもええ〜っ!!
東 直樹
東 直樹
えーーっ!!!
東 直樹
東 直樹
いやもっとおめでとうーとか珍しいなーとかないの!?
宮近 虎之助
宮近 虎之助
うーん、なんかさ、人の恋愛事情に首突っ込むのつまんないからさぁ……
宮近 虎之助
宮近 虎之助
そんなら新しい恋見つけた方が楽しいやん?
東 直樹
東 直樹
いや……まあな……うん………
宮近 虎之助
宮近 虎之助
さ、用も済ませたし直樹の秘密も知っちゃったし、そろそろ帰っかな!
そういうや否や、いきなり虎之助がすっくと立ち上がる。
東 直樹
東 直樹
お、おう。
宮近 虎之助
宮近 虎之助
あ、そだ。
今スマホないからあれなんやけど、あとで裕ちゃんのID、DMに送ってくれへんか?
檜谷 裕二
檜谷 裕二
別に、いいけど…入院中はスマホ見れない……よ?
宮近 虎之助
宮近 虎之助
あー忘れとったわ…
んじゃ、これから面会行ってもええ?
東 直樹
東 直樹
えっ
宮近 虎之助
宮近 虎之助
檜谷 裕二
檜谷 裕二
……まぁ、構わないです。
宮近 虎之助
宮近 虎之助
やったぜ〜!
宮近 虎之助
宮近 虎之助
近々会いに行くわ!んじゃーな!
東 直樹
東 直樹
おうよー。
檜谷 裕二
檜谷 裕二
ま、またね…
勢いよく扉がしまったあと、バタバタとせわしく階段をおりる音が聞こえる。

嵐が去った、そういう感じがした。
東 直樹
東 直樹
な、なんかごめんな。
檜谷 裕二
檜谷 裕二
ううん、別にいいよ。
…そろそろ俺も帰らなくちゃ。
東 直樹
東 直樹
……もう帰るのか?
檜谷 裕二
檜谷 裕二
うん。もう夕方だし……
東 直樹
東 直樹
…そっか。じゃあそこまで送っていくわ。
檜谷 裕二
檜谷 裕二
ありがとう。
そう言って俺と直樹は席を立ち、外に向かう。



ドアに手をかけた時、ふと直樹が立ち止まった。
檜谷 裕二
檜谷 裕二
どうした…
の、と言い振り返る前に、突然後ろから抱きしめられた。

不意に心臓の鼓動が速まる。
東 直樹
東 直樹
…好きだ。
檜谷 裕二
檜谷 裕二
っ……
檜谷 裕二
檜谷 裕二
ありがとう。
かろうじて、ありがとうとだけ言うことがてきた。
緊張と動揺で、汗がふき出る。
今窓から夕日が差し込んでいなかったなら、俺の顔色は隠すことが出来なかっただろう────


俺は──────



♢♢♢





まだ檜谷の香りが、強く鼻に残っている。
温かくて、どこか強さのある香り。
たとえ片想いでも、俺は────
東 直樹
東 直樹
っ、違う違う。それにしても随分と散らかしたな……掃除するか。
そう気持ちを切り替えると、東は近くにあった掃除用ワイパーを取り出す。
東 直樹
東 直樹
それにしても虎ちゃんのコミュニケーション能力は凄いな……裕引いてたし
東 直樹
東 直樹
……ん?
ふいに掃除したワイパーを持ち上げてみてみると、そこには見たこともないような量の髪の毛。
東 直樹
東 直樹
これ…もしかして……

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