まず概要だけ述べさせてもらうと、直樹の友達が来た。とはいってもどうやら俺と同じ学校のしかも同級生のようで、随分と直樹と仲がいい。俺は高校に入学してきてから人とほとんど関わらないほどの人脈なので、もちろん知らない。
いや気になるわ阿呆。……違うそうじゃない。
虎ちゃんと呼ばれたその友達は、隅で縮こまってる俺を見ると、躊躇なく話しかけてきた。
あっはっは〜!、とこの色素の薄い男はまたカラカラと笑う。申し訳ないけど見るからに頭の悪そうな男が、よくこの高校に入れたなと感じてしまう。
早速ちゃん付け。直樹より明るい陽キャの光が陰キャを消し炭にするがごとく、俺の魂を吹き飛ばした。
それに会ったことないけどまるで大阪のおばちゃんのように、肩をべしべしと叩く。悪意は無いのだろうが、痛い。
顔が真っ赤っか、おまけに身体中から汗が吹き出しているのがここから見ても一目瞭然だ。
そんなに顔を赤くしたらそりゃバレるに決まってるぞ馬鹿。まあこういう単純なところも嫌いではないのだが。
バレたのが恥ずかしいのか終始落ち着かない直樹とは反対に、ふたりの秘密を知った虎之助は意外にも薄い反応だった。
そういうや否や、いきなり虎之助がすっくと立ち上がる。
勢いよく扉がしまったあと、バタバタとせわしく階段をおりる音が聞こえる。
嵐が去った、そういう感じがした。
そう言って俺と直樹は席を立ち、外に向かう。
ドアに手をかけた時、ふと直樹が立ち止まった。
の、と言い振り返る前に、突然後ろから抱きしめられた。
不意に心臓の鼓動が速まる。
かろうじて、ありがとうとだけ言うことがてきた。
緊張と動揺で、汗がふき出る。
今窓から夕日が差し込んでいなかったなら、俺の顔色は隠すことが出来なかっただろう────
俺は──────
♢♢♢
まだ檜谷の香りが、強く鼻に残っている。
温かくて、どこか強さのある香り。
たとえ片想いでも、俺は────
そう気持ちを切り替えると、東は近くにあった掃除用ワイパーを取り出す。
ふいに掃除したワイパーを持ち上げてみてみると、そこには見たこともないような量の髪の毛。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。