kr「皆席について〜」
黒板の前に立つクロノア先生は、皆に笑顔を向けながら席に座るように指示した。
皆素直に従い、私も既に座っている。
先生の前では良い子でいたいのだ。
好きだから。
もちろん、男として。
クロノア先生の担当科目は英語。
私は英語がとても苦手だ。
だから先生のお気に入りの先生にはなれない。
頑張ってる。
沢山たくさん勉強して練習してる。
でも点数は伸びず、50点代。
『はぁ…』
「どうしたのそんなため息ついて?」
『里奈〜』
「またクロノア先生?」
『だって…』
私の良き親友の里奈に愚痴っていると、廊下で女子生徒の黄色い声が聞こえた。
あぁ、耳に響く。
この高校はもうちょっと静かにならんのか。
「あのビジュだもんな。そりゃあーなる」
『……私はあんな人達と同じじゃない。本当に先生が好きなのに』
「シャイだねぇ」
『……聴く曲は洋曲、洋画は英語版で字幕無し。1日3時間英語の勉強に割いて、頑張ってるのにこんなに出来ないなんて…』
「才能かね」
『だよなぁ…』
「諦めないの!」
『里奈はいいよね。80点も取れて…』
kr「そんなに勉強したいならもっと工夫できるよ」
『わっ…!?』
「あ、クロノア先生」
『どこまで聴いてたんですか…』
kr「んーと、日々の勉強方法を熱弁してた時くらいからかな」
『良かった…』
「どうしたんですか?」
kr「有野さんの担任の先生がね、有野さんが最近英語を熱心に勉強してるって聞いて。これを貸そうと思って」
そう言って先生は私に本を出した。
私は表紙を見て苦い顔をする。
表紙のタイトルは、英語で書かれていた。
どうやら海外の本のようだ。
kr「俺の私物なんだけど、凄く面白いから頑張って」
「いいじゃん!あなた読んでみなよ」
そう言って里奈はニヤニヤしている。
クロノア先生とのきっかけが、この本で生まれる。
『…はい。頑張ります』
・
・
・
『んぬぬ…』
まず日々積み重ねてきたはずの文法をもう一度チェックするところから始まり
なんとか頑張って、第1章まで読むことができた。
先生はこんなのすぐに読んじゃうんだろうな。
先生によく頑張ったって褒めてもらいたいだけなのに、こんなに苦い思いをするとは。
恋とは苦痛だ。
〈あ、もしもしー?〉
『どうしたの里奈?』
〈もしかして本読んでた?〉
『うん』
〈やっぱり。邪魔してごめんね〉
『いいよ。どうかしたの?』
〈ちょっと耳に挟んどこうとおもってさ…〉
『うん?』
〈…その、クロノア先生のことなんだけど〉
『…』
〈……好きな人がいるみたいな〉
『…まじか』
〈ごめんねこんなの…〉
『いや、知らないよりいいよ。ありがとう』
〈明日学校行けそう?家迎えに行くよ〉
『持つべきものは友達かぁ』
〈そーそー!任せなって〉
好きな人か。
そりゃ先生も人間だもん。
いるよね、そんな人くらい。
・
・
・
『おはよう』
「おはようあなた!」
『家の前までごめんね』
「いーよいーよ!ねぇねぇ今日さ、駅前のパンケーキ屋さん行こうよ!」
『いいねぇ』
翌日。
迎えに来てくれた里奈に、笑顔を振り撒くことはできなかった。
目はクマだらけで、腫れていて
明らかに別人だ。
見てわかるくらいなのに、里奈はいつも通りいてくれる。
良い友達だ。
学校に着くと、1限目から英語だった。
先生に借りていた本を読みながら、休み時間を終えるのを待っている。
失恋で泣きながらずっと本を頑張って読んで、半分ほどまできた。
ほら、私だって頑張ればできるもん。
kr「おはよー」
「おはよー先生ー」
kr「チャイム鳴ったら始めるねー」
「先生この前の宿題です!」
kr「期限切れだぞー」
「そこをなんとか…!」
kr「次から気をつけるんだぞー笑」
「ありがとう先生!まじサンキュ!」
kr「よし、それじゃあ始めるよ」
先生は、相変わらずかっこいいままだった。
あぁ、そりゃ恋人くらい……
「あなた…?」
『ん…?』
「泣いてるよ…?」
『え…』
自分の顔を触ると、涙がたくさん出ていた。
なんでだろう、先生を見ると泣いてしまう。
「……あなた、保健室行こう」
『え、でも英語…』
「それよりあなたの体調優先だよ」
『…』
「先生!」
kr「はーい?」
「あなたが体調悪そうなので、保健室連れて行きます!」
kr「そりゃ大変だな………ありがとう、先生が連れて行くよ」
『え…』
kr「皆はさっき配ったプリント最後までやっててくれる?」
「はーい!」
kr「じゃあ行こう。立てる?」
『は、はい…』
先生は私を優しく支えながら、一緒に保健室まで行ってくれた。
本当、人の気持ちも知らないで
どんどん好きにさせるんだから……
・
・
・
kr「安藤先生、失礼します」
「あらクロノア先生」
kr「すみません、生徒が1人体調を崩しまして」
「分かりました。とりあえずここに座ってくれる?」
『はい…』
「体温計挟むわね」
『…』
「……37.9度。少し高いわね」
『多分寝不足で…』
kr「もしかして俺の本…」
『えへへ…』
kr「ごめん。俺のせいで…」
「本を貸したんです?」
kr「はい。英語を熱心に勉強してくれていたので…」
「なら、今日はしっかり休みなさい。ベッド使って睡眠取って」
『はい…』
「飲み物でも取ってくるわ。少し待ってて」
kr「ありがとうございます」
私がベッドに向かうと、クロノア先生は私をベッドまで連れて行ってくれた。
kr「本当にごめんね」
『いえ…』
kr「…それじゃあ、ね」
『……先生』
kr「な、何?」
『…先生に、好きな人がいるって本当ですか』
kr「どこでそれを…?」
『……友達から』
kr「……いるよ。好きな人」
『…』
あぁ、やっぱり聞かなきゃよかった。
私の恋心返してよ、先生。
ダメだ、また泣いちゃう。
kr「……」
『…私…』
kr「…勘違いしちゃうよ?」
『え…?』
kr「君が、俺のこと想ってくれてるって」
『……そうですよ』
kr「…」
『ずっと……ずっとずっと好きだったのに…』
kr「ごめん…」
『なのに……なのに先生は…』
kr「…」
『……最初から、叶わないとは思ってました。でも…』
kr「……違うよ、あなた」
今、私のこと名前で……
kr「確かに俺に好きな人はいる。でもその人は、今の俺じゃ一緒になれない人だった」
『…』
kr「だから、あと1年半だけ気持ちを伝えることを我慢しようと思ってた」
『…1年半…』
kr「あなたは、あと1年半で卒業だ」
『嘘…』
先生の好きな人って……
kr「分かってるよ。生徒と好きになっちゃダメだって」
『…』
kr「でも俺は、君と一緒にいたい」
『…先生…』
kr「あなたは英語の勉強に熱心になってくれて、いつも一生懸命なところがすごく惹かれた」
『…』
kr「俺が今年初めてこの学校に来た時、あなたが俺を道案内してくれたこと覚えてる?」
『はい……私はあの時先生に一目惚れして…』
kr「あ、奇遇だね。俺も一緒」
『っ…』
kr「あの時、あなたのことが気になったんだ」
『…』
kr「今お互いの気持ちが分かったからって、今は何もする気はない」
『え…』
kr「付き合ったりしないよ。それはよくないからね」
『はい…』
kr「でも、1年半後。あなたを迎えに行く」
『っ…』
kr「約束するよ。必ずね」
『クロノア先生ぇ…!』
kr「はいはい笑」
『ハグは許されますか…?』
kr「…まぁ、一回くらいなら?」
『ガバガバじゃないですか……笑』
kr「そうかな?笑」
先生の腕の中は、まるで感じたことのある暖かさだった。
本当、大好きだ。
・
・
・
「卒業かぁ!」
『卒業式当日でそれ言う?笑』
「もーちょっと続けたくない?」
『そんなことないよ』
「えー」
親友と卒業式後に、学校の屋上でそんなことを話していた。
先生、約束覚えてるよね。
「ところで、クロノア先生とはどうなのさ」
『え?』
「なんかあんなけクロノア先生で悩んでたのに、何故か2年生辺りから何も言わなくなったじゃん?」
『まぁ…?』
「いいのかなぁって」
『……ま、親友には言っとくか』
「え?」
『私、先生に気持ちを伝えたの。その頃にね』
「ほう!?」
『先生も、私のこと好きでいてくれてたみたいでさ』
「マジ…!?」
『私すごく嬉しかった』
「急展開じゃん!じゃあ今付き合ってるの?」
『ううん。それはやめとこうってなって、今日くらいにもしかしたらそうなるかも』
kr「予感的中だよ」
『あ…』
「あ、クロノア先生」
kr「お待たせ」
「告白ですかぁ先生?笑」
kr「うるさいなぁ笑」
「じゃあお邪魔虫は消えるんでお2人でごゆっくり〜」
『ちょっと…!』
「あなた!来週遊ぶからね!」
『は、はい…』
kr「………ごめんね地獄耳で」
『いえ…』
kr「顔赤いよ」
『うるさいです…』
kr「はいはい笑」
『もう…』
kr「あなた」
先生は私のそばへ寄ってきて
私にお花をくれた。
『わぁ…!』
kr「やっぱり、こういうものの方が喜んでくれるかなって思ってね」
『先生…』
kr「あなた、お待たせ」
『っ…』
kr「俺の、お嫁さんになってください」
『は、早すぎですっ!』
kr「ふふ笑」
『でも……なります!!』













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。