恋蜜姫は、生まれながらにして奇しき力を授かっておりました。
それは──見たものを石へと変えてしまう、呪われた魔眼でございます。
そのため姫は、幼き日より常に目隠しを施され、光を見ることを許されませんでした。
春の花も、秋の紅も知らぬまま、ただ暗闇の中で息をしておりました。
そんなある折、虹夢姫の前に、新たなる影が姿を現しました。
それは、かつて虹夢姫の手にかかって命を落とした白虎王と紅華の──双子の姉弟でございます。
姉の名を苧環姫、弟を昇藤王子と申します。
二人は十四の年、両親の仇を討つために虹夢姫の宮に仕えることとなりました。
その瞳には静かな炎が宿り、笑みの奥に復讐の刃を隠していたのです。
そのころ、虹夢姫は若返りの妙薬を求め、日夜、禁術と薬学に没頭しておりました。
長き歳月をかけ、二十四の希少なる素材を集めましたが──
最後のひとつ、その正体のみが、いかなる文献にも記されてはおりませんでした。
ある夜、昇藤王子は、幽閉されていた恋蜜姫と出逢いました。
盲い目の少女は、王子の声を「光」と呼び、王子を「おともだち」と名づけました。
初めて生まれた純なる絆は、血と怨の渦巻く世界で、ひとすじの灯のように儚く輝いておりました。
やがて、虹夢姫は己が目的を果たします。
長年かけて作り上げた若返りの薬は、ついに完成へと近づき、同時に──
彼女は剥製と化していた白虎王の蘇生をも企てました。
禁断の儀式は、深夜に行われました。
黒き香煙が渦を巻き、魂を呼び戻す呪が紡がれたそのとき、
白虎王は確かに息を吹き返しました。
けれど、それは魂の抜け殻。
虚ろな眼を開き、足もとおぼつかぬまま、風のように彷徨う存在でございました。
虹夢姫はそれでも笑みを浮かべ、涙をこぼしながら「これでよい」と囁いたと申します。
その夜、昇藤王子は、眠る虹夢姫の寝所へと忍び込みました。
すべては父母の仇を討つために。
情を交わし、夜が明けぬうちに──彼は父の首を静かに斬り落としたのです。
翌朝、城は騒然といたしました。
白虎王の首を奪った者を探すため、多くの者が捕らえられましたが、
真犯人である昇藤王子には誰ひとり疑いの目を向けませんでした。
代わりに、罪なき男が吊り上げられ、命を奪われました。
けれど、苧環姫の姿を見た虹夢姫は悟ります。
その容貌、声、立ち姿までもが──亡き紅華に酷似しておりました。
虹夢姫は彼女を自らの夫としようとし、姫の純潔を奪い、男として生まれ変わらせてしまいました。
そして、そのときついに判明いたしました。
若返りの薬の、最後の素材。
それは──“美しき乙女の心臓”。
虹夢姫の瞳は狂気に染まり、その視線は恋蜜姫へと向けられました。
その日、母の手によって、恋蜜姫は胸を裂かれ、命を奪われました。
血潮が白い床を染め、姫の心臓は静かに黄金の杯へと沈められたのでございます。
虹夢姫はその心臓を溶かし、薬を完成させました。
一滴、二滴、唇に含めば──
その身はたちまち若返り、十六の頃の美貌を取り戻しました。
けれど、復讐は終わりませんでした。
昇藤王子は、心臓を奪われた恋蜜姫の亡骸を抱き、
その首を静かに刎ねました。
姫は血に濡れた足で踊り続けました。
まるで真っ赤に焼けた鉄の靴を履いたように、足を焦がしながら。
やがて、彼女の踊りが頂点に達した瞬間。
昇藤王子はその首を、狂喜に踊る虹夢姫の前へと差し出しました。
恋蜜姫の首が、虹夢姫を見つめ返しました。
その瞳は、かつて石化の呪いを宿していた“魔眼”。
虹夢姫の身体は、ひと息に灰色へと変わり、
そのまま、冷たき石の像となって永遠に動かなくなったのでございます。











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!