第51話

昔々──【続】
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2025/12/06 14:15 更新
恋蜜姫は、生まれながらにして奇しき力を授かっておりました。

それは──見たものを石へと変えてしまう、呪われた魔眼でございます。

そのため姫は、幼き日より常に目隠しを施され、光を見ることを許されませんでした。

春の花も、秋の紅も知らぬまま、ただ暗闇の中で息をしておりました。

そんなある折、虹夢姫の前に、新たなる影が姿を現しました。

それは、かつて虹夢姫の手にかかって命を落とした白虎王と紅華の──双子の姉弟でございます。

姉の名を苧環姫、弟を昇藤王子と申します。

二人は十四の年、両親の仇を討つために虹夢姫の宮に仕えることとなりました。

その瞳には静かな炎が宿り、笑みの奥に復讐の刃を隠していたのです。

そのころ、虹夢姫は若返りの妙薬を求め、日夜、禁術と薬学に没頭しておりました。

長き歳月をかけ、二十四の希少なる素材を集めましたが──

最後のひとつ、その正体のみが、いかなる文献にも記されてはおりませんでした。

ある夜、昇藤王子は、幽閉されていた恋蜜姫と出逢いました。

盲い目の少女は、王子の声を「光」と呼び、王子を「おともだち」と名づけました。

初めて生まれた純なる絆は、血と怨の渦巻く世界で、ひとすじの灯のように儚く輝いておりました。

やがて、虹夢姫は己が目的を果たします。

長年かけて作り上げた若返りの薬は、ついに完成へと近づき、同時に──

彼女は剥製と化していた白虎王の蘇生をも企てました。

禁断の儀式は、深夜に行われました。

黒き香煙が渦を巻き、魂を呼び戻す呪が紡がれたそのとき、

白虎王は確かに息を吹き返しました。

けれど、それは魂の抜け殻。

虚ろな眼を開き、足もとおぼつかぬまま、風のように彷徨う存在でございました。

虹夢姫はそれでも笑みを浮かべ、涙をこぼしながら「これでよい」と囁いたと申します。

その夜、昇藤王子は、眠る虹夢姫の寝所へと忍び込みました。

すべては父母の仇を討つために。

情を交わし、夜が明けぬうちに──彼は父の首を静かに斬り落としたのです。

翌朝、城は騒然といたしました。

白虎王の首を奪った者を探すため、多くの者が捕らえられましたが、

真犯人である昇藤王子には誰ひとり疑いの目を向けませんでした。

代わりに、罪なき男が吊り上げられ、命を奪われました。

けれど、苧環姫の姿を見た虹夢姫は悟ります。

その容貌、声、立ち姿までもが──亡き紅華に酷似しておりました。

虹夢姫は彼女を自らの夫としようとし、姫の純潔を奪い、男として生まれ変わらせてしまいました。

そして、そのときついに判明いたしました。

若返りの薬の、最後の素材。

それは──“美しき乙女の心臓”。

虹夢姫の瞳は狂気に染まり、その視線は恋蜜姫へと向けられました。

その日、母の手によって、恋蜜姫は胸を裂かれ、命を奪われました。

血潮が白い床を染め、姫の心臓は静かに黄金の杯へと沈められたのでございます。

虹夢姫はその心臓を溶かし、薬を完成させました。

一滴、二滴、唇に含めば──

その身はたちまち若返り、十六の頃の美貌を取り戻しました。

けれど、復讐は終わりませんでした。

昇藤王子は、心臓を奪われた恋蜜姫の亡骸を抱き、

その首を静かに刎ねました。

姫は血に濡れた足で踊り続けました。

まるで真っ赤に焼けた鉄の靴を履いたように、足を焦がしながら。

やがて、彼女の踊りが頂点に達した瞬間。

昇藤王子はその首を、狂喜に踊る虹夢姫の前へと差し出しました。

恋蜜姫の首が、虹夢姫を見つめ返しました。

その瞳は、かつて石化の呪いを宿していた“魔眼”。

虹夢姫の身体は、ひと息に灰色へと変わり、

そのまま、冷たき石の像となって永遠に動かなくなったのでございます。

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