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第16話

玉ねぎ
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2024/11/29 14:14 更新
『づがれだ』

直接試合に関わらないと言えど、仕事はたくさんあるもので…
それでも私の仕事は少ないほう

潔子さんや先輩マネさんはもっと大変なはずなのに、疲れた顔1つ見せないのだから尊敬するしかない


手伝いをしていた音駒の試合が終わって、後は片付けだけ。それが終わったら…!

夜久「はは、研磨みたいなこと言ってんな!」

『夜久さん!?すみません、マネージャーがこんなこと言って。皆さんの方が疲れてるのに…」

夜久「いいや!1年にしては頑張ってると思うぞ。」

そう言って二カッと笑う夜久さんに心臓が一気に速くなるのかわかった。男前すぎるこの人…

黒尾「ウチの幼馴染口説かないでくれます〜?」
夜久「くどっ!?からかってんじゃねえ!!!」
リエ「夜久さん図星ですかー??」

あの甘い雰囲気はどこへやら、あっという間にいつものやりとりに。うわ夜久さんの蹴りやば…って時間もやばいBBQの準備しなきゃ

ふふ、と思わず笑みがこぼれてしまう。だって今日は合宿最終日、すなわちバーベキューの日!!!
正直これが1番楽しみだったんだよね。
清子さんが握ったおにぎり タベル、ゼッタイ


研磨「おつかれ、あなた」

『うわぁ!?!』

さっきまで壁にもたれて休んでいた研磨が急に話しかけてくるから、ビブスを全部落としてしまった
私ニヤニヤしてなかったかな…!

研磨「うわっ…何してんの」

『急に話しかけてくるからだよ!!』

研磨「だってニヤニヤしてるから気になって」

ふ、とこちらを見て笑う研磨に顔が熱くなるのがわかり、逃げるようにして下に落ちているビブスを拾った

顔を上げると研磨と目が合い、からかわれる気配がしたので研磨が口を開くより先に声を出した


『烏野!すごいでしょ」
「…うん、面白い」

隣のコートでは烏野×梟谷の試合が行われている

鷲尾さんから放たれたボールをノヤっさんが華麗にレシーブし、 ボールは影山の元へ

そのとき、コーチや選手たちが一斉に目を見開いたのかわかった。
翔陽が明らかに早いタイミングで飛び出したのだ

まるで自分にボールが来るとわかっているかのように

ボールが返る間わずかな迷いが影山の目に浮かんだ
しかし翔陽の一言で確信に変わったボールはフッと空を描き、翔陽の手の中におさまる。いや、止まった

みんなの動き、音、時間も全てが止まったかのようで息をするのも忘れてしまいそうだった

気がつくとボールが床に転がっていて、それを合図だと言うようにコーチや翔陽が雄叫びを上げていた


翔陽がまだじんじんと痛むであろう右手を固く握り、噛み締めるように呟いた「もう1回!!!」はその場にいた全員の士気を高める

田中「クソ羨ましい〜!!俺にも決めさせろォー!」
西谷「負けらんねぇ。続くぜェーッ!!」
木兎「ヘイヘイヘーイ!呑まれるんじゃねえぜお前ら〜!!」


成功、した…!
感動している私をよそに水分補給をしていた研磨が、おもむろに口を開いた

研磨「…翔陽はいつも新しいね」

そのときの研磨の表情を私は一生忘れないと思う


『ふふ、黒尾さんの気持ちわかったかも』

黒尾「ん〜?俺がなんだって?」

どこからかやってきた黒尾さんが私と研磨の間に割り込んできた

研磨「クロ、邪魔」
黒尾「ヒドッ」
『研磨が翔陽のおかげで楽しそうだな〜って話!』

そう言うと、黒尾さんは一瞬目を大きく開いたあと
優しく笑って私達の頭をわしゃわしゃとなでた

黒尾「新しいゲーム始める時みたいな顔だろ?」

『多分そう!』

研磨「別にしてないし、ていうかソレどんな顔」

『「わくわく顔」』

そう言うと、研磨の顔が3倍険しくなってめちゃくちゃ笑った
夜久さんの「試合始まんぞー」という声で私も準備があることを思い出した

『じゃ、頑張ってね!』
研磨「うん、あなたもね」
黒尾「まー頑張りすぎんなよ。…あと呼び方戻ってません?っておい!」


鳴り響く笛の音と誰かさんの声をBGMにし、
小走りで外に出ると1匹の烏と目が合った



真っ黒な目をした烏は特に鳴くわけでもなく
3秒ほど目を合わせるとどこかへ飛んでいった




猫又「1週間の合宿お疲れ諸君!
空腹にこそウマいものは微笑む
存分に筋肉を修復しなさい」


《いただきますっ!!!》


言い終わると同時に手を伸ばしたのはもちろんおにぎりの山
確かこのテッペンのを潔子さんが握ったはず!
この勝負!貰っ

『あっ』

おにぎりまであと数センチのところで、私の右手は空を切った
今、目当てのおにぎりは





赤葦「…!美味しい」


彼の胃の中にある
おにぎりに夢中になっている彼は私になんて気づいていないようで、
1口1口噛み締めるように呟く「美味しい」を聞いて正気でいられるわけないですよね


『赤葦さん!!!!!なんてことするんですか!?』

赤葦「えっ俺が何かした?」

『潔子さん!のおにぎり!!!食べたかったです!』

田中・西谷「「潔子さん!?」」

潔子というワードに反応したのか5m先から2人がドスドスと迫ってきていた
肉の山を片手に鼻息荒く登場する姿はまるで野生動物のよう

西谷「潔子さんかどうした!?」

『赤葦さんが…潔子さんを食べたんです!!』

田中「なぁんだってェ〜!?!」

赤葦「え!?」

なんのことか分からないというように困った顔をしている赤葦さんに違和感を覚えたのか、2人の勢いが減った気がした。
もう一押しだと思い、思いっきり息を吸い込む

『私の潔子さんがぁーー!!」

「「あーかーあーしーくーん???」」

私の叫びが決め手となったのか2人はジリジリと赤葦さんに攻め寄う
しかし、騒動を聞きつけてか鬼の形相をした澤村さんがこちらに向かってきている気がするので、その場から離れることにした

いつも冷静な赤葦さんからは想像できないくらい慌ててて面白かったな。おにぎりと第3体育館のこともあったし、仕返しってことにしとこう



翔陽「あなた!食ってるか!」

余っているお肉がないかテーブルを探しているとらリスみたいに両頬をパンパンにした翔陽が話しかけてきた

『食べてるよ!それにしても翔陽のお皿、肉ばっかだね…!』

翔陽「だろ!影山のやつにとられないよーに取っといたんだ」

影山「おい日向!お前肉取りすぎだボケェ」

噂をすれば、翔陽と同じようにほっぺが膨れた影山くんがやってきた
なにやら喧嘩が始まりそうだったので慌てて話題を変える

『っそういえば!変人速攻成功したのすごいね!!』

影山「ああ」

『影山くんは1人でずっと特訓して止まるトスを実現するなんて本当にすごいし!』

影山「…ウス」
翔陽「おれは!?」

『翔陽も木兎さんから教えてもらったことすぐに実践したり、明らかにレベル上がってるよ!』

翔陽「へへ、だろ!あなたほめじょーずだな!」

そう言って照れくさそうに笑う翔陽は相変わらず太陽みたいで、熱くなった顔を隠すように下を向いた



なにか前が騒がしくなってきたので顔をあげると2人が喧嘩をしていて、結局こうなるのかとため息がこぼれた

喧嘩するほど仲がいいと言うのは本当なんだな、と呑気に考えていると影山くんのお皿が目に入った

『あ、その玉ねぎ私が切ったやつだ』

そういった途端、不思議と言い合いが止まってなにかひそひそと話し始めた、かと思えばまた言い合いが始まり影山くんがお皿から目を離した瞬間

「よっと」
翔陽・影山「「あ」」

まるで猫のように横から現れたリエーフが器用に玉ねぎだけを口へ運んだ

灰羽「あなたちゃんこの玉ねぎめっちゃ美味い!」
『ありがとう!切っただけだけど!』

翔陽「リーエーフー???」

リエーフが満面の笑みを浮かべながら首根っこを掴まれ連行されていく姿を見て、ひしひしと罪悪感を感じた









楽しむはずのBBQでなぜか疲れてしまった私は、
静寂を求めて、体育館入口付近へ向かうことにした


研磨「……」
月島「……」
『………」
山口「静か、だね…」


研磨
研磨
なんでこっち来たの
あなた
静寂を求めて
あなた
だめだった?
研磨
研磨
うん
あなた
うん!?
研磨
研磨
だって絶対騒がしくなるし



なんかすごい嫌がられてて悲しい
そこはかとなくツッキーからの視線も感じるし

そうだ!
潔子さんたちマネージャーエリアにでも移動し


研磨・月島「「『げ』」」

澤村「あっいたいた。あなたさんちょっとお話いいかな〜??」

黒尾「研磨ー!!ちゃんと野菜も食えよ!!」

木兎「肉だろ!!肉を食え!!」


研磨
研磨
ほらね
あなた
どうしよう澤村さんの目全然笑ってない
研磨
研磨
「赤葦さんが潔子さんを食べたー!!」
研磨
研磨
こっちまで聞こえてた
あなた
ちなみに今から入れる保険てありますか
研磨
研磨
知らない



他校に迷惑をかけるんじゃありません!
ごめんなさい!!!!
だーかーら!野菜も食べなさいって言ってるでしょーが
食べないと大きくなれないぞ!!
間に合ってます

目を覚ますとそこは新幹線の中で、周りを見回すと私と同じように疲れて寝てしまっている人がほとんどだった

もう一度目をつぶって考える

当たり前になっているけど、私が今日会った人たちはみんな別の世界の人で。
私が今いる場所は、本来私がいていい場所ではない


私は、このまま生活していくのだろうか


本当の私は今、どうなっているのか


気にする暇もなかった不安が一気に押し寄せてきて、息が震えた



もしこれが私の夢の中で
覚めたらこの不安から解放されるのならば
私は、




いや、この先はまた起きてから考えよう
まだこの答えをだす時じゃない…と思う


私は考えることを放棄して、
音のない暗闇に身を授けた

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