第一章 調教と協調?◀︎START
第二章 牢獄のヒミツ
第三章 あなたがいるから
朝。
いつも通り卵をときながら
ぼーっと二人分の弁当を作る。
お母さんは朝早くから仕事へ、
お父さんは三歳の頃に他界してしまった。
あんまり記憶にはないが、
とにかく、とにかく優しかったことは確か。
俺はそんな独り言を呟きながら
フライパンに卵を入れる。
卵焼き作ったらお弁当は一旦終わりかな、。
次は妹起こして______________
透き通った声が後ろから投げかけられる。
彼女が妹の緑衣澄実。
……あ、彼女ってのは三人称だよ?
妹はカバンをもって
ダイニングルームに降りてきていた。
二人だけだけど、俺はなんでもないこの日常が、
すごく幸せだった。
澄実は菓子パンを一つ手に取り、
椅子に座って食べ始める。
俺は卵焼きを切っていれ、お弁当を完成させた。
世の中は秋と呼ばれる季節になっていた。
まぁゆーてもう肌寒いから秋とも
言えないかもだけど。
神様、秋をどこへやったと言うんですか()
俺はぽつりとこぼしてお弁当を入れた
カバンを肩にかけて外へ出る。
今日は大学で授業のオンパレード。
普段はこんなことないのだが、
サボっていたツケが回ってきたんだろう。
俺はいいながら黒いピアスを小さく揺らしながら
比較的近めな大学へと向かう。
とは言っても暗くはなってしまったし、
と思い、俺はお母さんと澄実の為に
買ってきたケーキを取り出して______________
驚いたように目を見開く澄実。
早く帰ってくる、と言った日は
六時くらいにはいつも帰ってきていた。
永遠にも感じられる気まずい時間が
俺と澄実の間に流れる。
______________すごく、嫌な予感がした。
澄実の制止も聞かず、俺はドアの外へと走り出す。
位置がわかるわけじゃないけど、
俺の嫌な予感と直感を頼りに走り出した。
スマホを握りしめる。
そうだ、連絡が取れないと決まったわけじゃない。
俺は出ろ出ろ出ろ…、と唱えながら
お母さんに電話をかける。
プルルルル…と鳴り響く携帯。
しかし予想外にも、その音はすぐに切れて、
電話口からお母さんの声が聞こえてきた。
お母さんの泣き出しそうなくらいに震えた声に、
俺は言葉を失う。
早く帰ってくるって言ってたじゃん、って。
冗談めかして言うつもりが、全部吹き飛んだ。
手が震える。
嫌な予感は、当たっていた。
たった四文字。
その言葉を最後にお母さんは泣き出してしまう。
何があったのか、どうして泣いているのか。
そんなことは聞けなくて、。
俺は震える声でそう言った。
澄実には連絡をしない。
心配、かけたくないから。
俺はそのまま、お母さんがいる場所である、
近くの山奥へと走った。
はぁ…と息を吐き出し、唇を血が出るくらいに噛む。
幸せは、自覚した途端に崩れる。
この事が、浮き彫りになった日だった。
走って、走って、走って。
息が詰まる。
苦しい。
肺が痛い。
そんな中で俺はぼんやり見えてきた
お母さんの姿に少し安堵した。
俺はお母さんを安心させようと
極めて優しい声で言う。
すると、お母さんは俺の顔を見て、
数回まばたきしてから、立ち上がり、
俺の手首を掴んで歩き出した。
声を絞り出したと、ほぼ同時。
目の前の光景を見て固まった。
その光景は、普通を送ってきていた俺達には、
あまりに凄惨だった。
そう、漏れた声は、掠れて聞こえないほどだった。
言葉が出なくて、地面に崩れ落ちて
泣いているお母さんに、何か言わないと、
と思うのに、何も出てこない。
仕方、ないよね?
仕方ないと、言ってくれ。
だって…。
その先には俺よりも歳上であろう男が
血まみれになって倒れていたんだから。
はくはくと、口が意味の無い動きを成す。
血なまぐさい臭い。
ピクリとも動かない男。
死んでいることが、優にわかった。
狂ったように叫び出すお母さん。
それも無理はない。
でも、やったのは言動的に、
紛れもないお母さん自身だ。
責任を、とらないといけない。
ポロポロと、涙がこぼれた。
あぁ、…嫌だな。
ころしたのがお母さんだったとしても。
理由なんてなく人をころしたりは、
しない人なのに。
俺はやっと紡げた言葉でそう聞く。
すると、お母さんは正気に戻ったように、
静かに呟いた。
あまりに現実的な理由に、思わず声が漏れる。
お金。
指図されて動く人間はだいたいこれが理由だろう。
お父さんが他界して、お金に苦しいのは、わかる。
でも、でも…違う、じゃん、。
俺は大きな声で涙ながらに言うと、
お母さんは所々血がついた服の袖で俺の涙を拭う。
そう静かにこぼして、
消えそうなくらい淡い笑みで微笑んで見せた。
俺はそれを見て、何も言えなくなった。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!