その後人魚を城に連れて帰ったショウタは、案の定父親である王に目をつけられた。
だがショウタは売買のことは言わず、
『弱っている人魚を海で見つけたから元気になるまで世話をする』と嘘をついた。
それが嘘だろうと本当だろうと、これ以上は口を割らないのを父親は知っていたため、
世話をするのを承諾した。
水槽を自分の部屋に置き、横に椅子をつけ、人魚に向かって話しかけた。
すると、ずっと離れていた人魚が近づいてきた。
水から顔を出し、机を指差す。
渡すと、何やら書き始めた。
そして書き終えたのか、紙を渡された。
人魚は小さく頷いた。
そう言って握手を求めると、リョウヘイは小指だけを軽く握り、水の中に戻っていった。
まだ少し、人間に対して恐怖心があるのだろう。
それを理解していたから、それ以上は近づかず、一旦部屋を出ることに。
「兄様!」
部屋を出ると、そう呼ばれた。
そこにいたのは、弟のラウール。
第二王子にも関わらず、王位継承権の第一位を持っている。
その理由は、あまりにもショウタが王に相応しくないから、
ショウタより頭の良いラウールを次の王にしようと決めたのだ。
そう、ショウタはリョウヘイを初めて見たあの時、恋に落ちていた。
それを自身で把握して、そして誰の手にもいかないように、自分で買ったのだ。
ラウールは俯いた。
そして、真っ直ぐショウタを見つめた。
呼び止めるラウールを無視し、ショウタはこの場から去った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!