take side
宿屋で、俺達は話した。
彼のこと、そして、春希のことを。
ツバサが呟く。
お互い全く面識はない。
なのに、一緒にいればいるほど懐かしくなる。
俺はツバサと話しながら、832へ手紙を書いた。
春希と出会ったことを告げた。
そして悩んで、今、分かっていることも書いた。
手紙は数枚にも及んだ。
風に飛ばされる手紙を見ながら言う。
俺達に想いを伝え、俺達を巡り合わせ、探させて。
それが全て彼の思惑通りなのだとしたら、一体彼は何を求めているのだろう。
窓から強い風が吹き込む。
また、歌う。
『____魂の唄響く 狂詩曲』
手帳に書き留める歌詞を、ツバサは覗き込んだ。
静かに息を吐き、寝転ぶ。
分からないから、だから旅をする。
わざわざ寝転んだ身体を起こして、ツバサは目を閉じた。
こんな所でも横になれないとは。
布団を被り、ツバサに背を向ける。
微かに聞こえるツバサの溜息が、俺の眠りに落ちるまでの時間を引き伸ばさせた。
俺達は翌朝、誰にも出会わず街を出た。
目的はあろうと宛のない旅だ。
ただ、前来た方と逆に足を進める。
春希と出会った教会を通り過ぎ、俺達はまた森を歩いていた。
このご時世に旅人を歓迎しない街など珍しい。
けれど、地域に根付いたなにかがあるのだろう。
ツバサは渋い顔をした。
それでも街を回るぐらいしか、今の俺達にできる旅はない。
重い足を動かし、俺達は何日もかけて山を超えた。
ツバサの言う通りで、良い気はしない街に着いた。
なにか直接言われる訳ではなく、ただあからさまに避けられ、目を逸らされ、ため息を吐かれる。
ここで宿屋を取るのは難しいだろうか。
ダメ元で声を掛けてみる。
何も言わない、あからさまに嫌そうな顔をするが、それでも立ち止まってくれた。
道を指差し、そう告げる。
俺は素直に頭を下げた。
ツバサも頭を下げてから着いてきた。
大きな溜息が聞こえたが、気にしていられない。
着いた宿屋は、俺達以外の客がいなかった。
同じように嫌な顔をされるが、一応部屋は取る。
俺達はまた部屋を出、教会へ向かった。
中央の長机に、あの手紙がある。
今回は開いた。
『あなたはいつも、歌を歌っているのだ』
春希の想いが伝わる。
彼はいつも、いつも歌っている。
彼の歌声は美しい。
涙が出るほどに。
俺は、彼を忘れてしまっているのだろうか。
それきり、手紙を置いて宿屋へ戻った。
春希は一体今まで、どれくらい旅をしてきたのだろう。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。