第180話

リクエスト番外編 根無し草が咲く場所は ④
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2025/08/20 11:29 更新


それからしばらくして、実弥の腕の傷が治る頃‥‥。



環奈は何やらそわそわしながら包帯を外していた。


花咲環奈
(‥‥もう、治療は必要なさそうですね‥‥)
花咲環奈
あの、実弥さん‥‥包帯の方はもう必要ないようです


心なしか、声に元気がなくなってしまう‥‥。


不死川実弥
あ?‥‥チッ‥‥もう治ったのかよォ


どこか不満そうな様子の彼に、環奈は勇気を出して告げる。

花咲環奈
あ、あの‥‥実弥さん、明日も‥‥来てくださいますか?
不死川実弥
あ?
花咲環奈
あの、熊に引っかかれたとなると、傷がふさがっても油断はできないかと思いまして‥‥その‥‥


環奈は嘘をついた‥‥。




明日も‥‥彼に会いたくて‥‥。




気づけば、外した包帯をギュッと握りしめていた。




その強張こわばった手を彼の温かい手が包み込んだ。



不死川実弥
明日も来る、その次の日も‥‥ずっとなァ




その言葉が、彼と会える約束ができる事が、泣きたくなるくらい嬉しかった。




花咲環奈
‥‥はい、待っています‥‥でも、怪我はあまりしないように気をつけてくださいね


環奈がそう言うと、彼はそっと笑ってみせた。







ある日のこと、この日は午前からやたらと賑やかだった。


時透無一郎
環奈さーん、いる?
煉獄杏寿郎
よもや!花咲、息災そくさいか?


環奈が実弥と談笑していると、目覚めた日に見かけたふたりがやってきた。


不死川実弥
あ?時透に煉獄じゃねェか、何しに来たんだァ?
煉獄杏寿郎
うむ!花咲に会いたくなってな!
時透無一郎
何さ、不死川さんこそ毎日来てるって聞いたけど
不死川実弥
俺はいんだよ、邪魔すんなよ


どことなく不機嫌そうな実弥をよそに、この日は皆で食事に行く事になった。


この日、四人は実弥の行きつけだという蕎麦屋そばやにやって来た。


そば屋の店主
いらっしゃい!いつもご贔屓ひいきに!
いつものでいいかい?
不死川実弥
あァ、そば四人前頼む
不死川実弥
環奈、こっちだァ
花咲環奈
あ、はい


環奈は初めて来るお店にやや緊張するも、実弥が隣でさりげなく先導せんどうしてくれるのでホッとしていた。


そして、案内された席に着く。


環奈の隣には実弥、向かい側には煉獄、ななめ向かいには時透が座った。


時透無一郎
環奈さん、体調とかは何ともないの?


時透が気遣うように声をかけてきた。


花咲環奈
あ‥‥はい、えと、時透‥‥さん、私は記憶がない以外は特に体調は悪くありません
時透無一郎
そうなんだ、でも時透さんなんてかしこまらなくていいよ
時透無一郎
僕の事は無一郎って呼んでくれて構わないから


時透が甘えるような視線を環奈に向けた。


花咲環奈
あ‥‥そうですか、無一郎さん


環奈がそう言うと、無一郎は何やら苦笑いを浮かべて言葉を続けた。


時透無一郎
そうじゃなくてさ、僕年下だし無一郎って呼び捨てで呼んでくれて構わないから
花咲環奈
‥‥無一郎ですか?
不死川実弥
オォイ、時透は時透だろうがァ


環奈の隣に座っている実弥が顔に青筋を浮かべてそう告げた。


煉獄杏寿郎
はははは、呼び名など、そこまで気にする事は無いだろう!
煉獄杏寿郎
花咲、俺の事は煉獄でも杏寿郎でも好きに呼ぶといい!
花咲環奈
あ‥‥はい、わかりま‥‥
不死川実弥
環奈ァ、こっちの声がでけェのが煉獄だァ、
煉獄って呼べェ、みんなそう呼んでるゥ
不死川実弥
んで、こっちのちっこいのは時透だからなァ
時透無一郎
‥‥その紹介の仕方、聞き捨てならないなぁ
煉獄杏寿郎
はははは、まぁそう気にするな


口をとがらせる時透を煉獄がなだめる。



実弥は環奈に言い聞かせるように、やたらと丁寧に彼らの名前の紹介をしてくれた。



記憶をなくした環奈にとって、ほぼ初対面となる相手の接し方を教えてもらえる事は、呼ぶ名前一つをとってもありがたいことだった。


花咲環奈
(‥‥よかった、実弥さんのおかげで助かります)
花咲環奈
はい、わかりました実弥さん


環奈が微笑んで素直にそう言うと、実弥も笑顔を見せていた。


そば屋の店主
へい、蕎麦お待ち!


そうこうしているうちに四人分の蕎麦が届き、目の前に置かれた。


出汁だしいたおいしそうな香りが鼻をくすぐる。


花咲環奈
おいしそうです
不死川実弥
んじゃ食おうぜ
煉獄杏寿郎
うむ!いただこう!
時透無一郎
おいしそうだなぁ



花咲環奈
(‥‥えぇと、お蕎麦はどのように食べたら‥‥)


環奈がそっと周囲の様子をうかがっていると、男性陣三人はズゾゾゾゾー‥‥と豪快ごうかいに蕎麦を食べていた。


花咲環奈
(‥‥あのようにすすって食べるのですね‥‥)




そう理解した環奈は、皆の真似をして食べ始めた。




花咲環奈
ちゅるっ‥ちゅるるるるー‥ちゅるっ
花咲環奈
(‥‥何だか上手く食べれないですね)



環奈が一生懸命食べながら、ふと顔を上げると、
皆の視線がこちらに集中していた。



煉獄杏寿郎
ははははは!花咲のそばの食べ方は相変わらず愛らしいな!
時透無一郎
ははっほんと、環奈さん可愛いね



皆の言葉にカァァッと顔が熱くなってくる。


花咲環奈
あ、あのっ‥‥少し食べるのが難しくて‥‥
お見苦しくてすみません‥‥

不死川実弥
環奈ァ、気にするこたァねェよ、
ゆっくり食べろォ


そう告げる実弥のほおが少し赤いように見えた。


食事の後は皆で買い物に行き、楽しい時間はあっという間に過ぎていった‥‥。







いつの間にか陽が傾き始める。






煉獄杏寿郎
よもや!時間が過ぎるのは早いな!
今日は楽しかった!
時透無一郎
あー楽しかった!環奈さんまた出かけようね、
今度は環奈さんと二人で行きたいなぁ
不死川実弥
オォイ、時透ォ、調子乗んなよォ

花咲環奈
皆様ありがとうございました。とても楽しかったです
煉獄杏寿郎
うむ!では、またな!
時透無一郎
環奈さん、またね




町で煉獄と時透を見送った環奈は、実弥と共に歩き出した。



不死川実弥
環奈ァ、蝶屋敷まで送ってく
花咲環奈
はい、ありがとうございます


ふたりが歩き始めて数分も経たない頃、突如とつじょ天候が悪化し雨が降り出した。


花咲環奈
あ、雨‥‥
不死川実弥
環奈ッ、走るぞッ


実弥に手を引かれ環奈は走り出す。



近くで雷鳴らいめいとどろき、雨は土砂降りへと変わっていった。



体に容赦ようしゃなく大きな雨粒が落ちてくる。



ふたりは雨をけるように、近くの民家の軒下のきしたに身を寄せた。



不死川実弥
けっこう降ってきたなァ


町から蝶屋敷へは、まだそれなりの距離がある。


花咲環奈
すぐに止むでしょうか‥‥


ほおに流れ落ちる雨粒を拭いながら、環奈は暗くなった空を見上げた。







不死川実弥
‥‥環奈ァ





不死川実弥
俺ん家、来るか?




実弥の提案に、環奈の心臓がトクンッと跳ねた。








花咲環奈
‥‥実弥さんの、お家ですか?


不死川実弥
俺ん家、こっからちけェんだよ、雨も止みそうにねぇし‥‥
不死川実弥
蝶屋敷まで行くとなると、ずぶ濡れになっちまう



ややひかえめに告げる実弥の言葉には、確かな優しさがこもっていた。











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