それからしばらくして、実弥の腕の傷が治る頃‥‥。
環奈は何やらそわそわしながら包帯を外していた。
心なしか、声に元気がなくなってしまう‥‥。
どこか不満そうな様子の彼に、環奈は勇気を出して告げる。
環奈は嘘をついた‥‥。
明日も‥‥彼に会いたくて‥‥。
気づけば、外した包帯をギュッと握りしめていた。
その強張った手を彼の温かい手が包み込んだ。
その言葉が、彼と会える約束ができる事が、泣きたくなるくらい嬉しかった。
環奈がそう言うと、彼はそっと笑ってみせた。
ある日のこと、この日は午前からやたらと賑やかだった。
環奈が実弥と談笑していると、目覚めた日に見かけたふたりがやってきた。
どことなく不機嫌そうな実弥をよそに、この日は皆で食事に行く事になった。
この日、四人は実弥の行きつけだという蕎麦屋にやって来た。
環奈は初めて来るお店にやや緊張するも、実弥が隣でさりげなく先導してくれるのでホッとしていた。
そして、案内された席に着く。
環奈の隣には実弥、向かい側には煉獄、斜め向かいには時透が座った。
時透が気遣うように声をかけてきた。
時透が甘えるような視線を環奈に向けた。
環奈がそう言うと、無一郎は何やら苦笑いを浮かべて言葉を続けた。
環奈の隣に座っている実弥が顔に青筋を浮かべてそう告げた。
口を尖らせる時透を煉獄がなだめる。
実弥は環奈に言い聞かせるように、やたらと丁寧に彼らの名前の紹介をしてくれた。
記憶をなくした環奈にとって、ほぼ初対面となる相手の接し方を教えてもらえる事は、呼ぶ名前一つをとってもありがたいことだった。
環奈が微笑んで素直にそう言うと、実弥も笑顔を見せていた。
そうこうしているうちに四人分の蕎麦が届き、目の前に置かれた。
出汁の効いたおいしそうな香りが鼻をくすぐる。
環奈がそっと周囲の様子をうかがっていると、男性陣三人はズゾゾゾゾー‥‥と豪快に蕎麦を食べていた。
そう理解した環奈は、皆の真似をして食べ始めた。
環奈が一生懸命食べながら、ふと顔を上げると、
皆の視線がこちらに集中していた。
皆の言葉にカァァッと顔が熱くなってくる。
そう告げる実弥の頬が少し赤いように見えた。
食事の後は皆で買い物に行き、楽しい時間はあっという間に過ぎていった‥‥。
いつの間にか陽が傾き始める。
町で煉獄と時透を見送った環奈は、実弥と共に歩き出した。
ふたりが歩き始めて数分も経たない頃、突如天候が悪化し雨が降り出した。
実弥に手を引かれ環奈は走り出す。
近くで雷鳴が轟き、雨は土砂降りへと変わっていった。
体に容赦なく大きな雨粒が落ちてくる。
ふたりは雨を避けるように、近くの民家の軒下に身を寄せた。
町から蝶屋敷へは、まだそれなりの距離がある。
頬に流れ落ちる雨粒を拭いながら、環奈は暗くなった空を見上げた。
実弥の提案に、環奈の心臓がトクンッと跳ねた。
やや控えめに告げる実弥の言葉には、確かな優しさがこもっていた。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。