薄暗い法廷の廃墟。かつて正義が裁きを下した大広間は、今や割れたステンドグラスから差し込む月光だけが照らす戦場と化していた。
中央に立つのは、280cmの巨躯。 天秤公正(あまはかり こうせい)。 白金のハンマーを右肩に担ぎ、銀と白の軍服が微風にも揺れない。七三分けの白髪も、白い瞳も、完璧な左右対称を崩さない。感情の欠片すら許さない審判者の姿そのものだ。
対峙するのは、ふわりと浮かぶ小さな影。 チョンサ。 天使型フェアリー。パステルブルーとパステルパープルのグラデーションが流れる髪、淡い光を宿した瞳。頭上に輝く金の輪が、彼女の存在を聖なるものとして際立たせている。 右手にはパステルイエローの拳銃「レモンミルク」が握られ、銃口からは甘いレモンの香りが漂っていた。
「……罪状を述べよ」
天秤の声は低く、氷のように冷たい。
「存在そのものが不均衡。裁定は――死」
チョンサは小さく笑った。
瞬間、天秤のハンマーが唸りを上げて振り下ろされる。 地面が砕け、衝撃波が石畳を放射状に吹き飛ばした。だがチョンサはすでに空中にいた。羽根のように軽く舞い、くるりと回転しながらレモンミルクを連射。
パン! パン! パン!
弾丸は淡い黄色の軌跡を残し、天秤の肩と胸を掠める。だが傷は浅い。いや――傷自体がついていない。 天秤の外套に刻まれた天秤の紋章が一瞬光り、すべての攻撃を「均衡」へとねじ曲げていた。
「無駄だ」
天秤は一歩踏み出すだけで距離を詰め、ハンマーを横薙ぎに振るう。 風圧だけでチョンサの小さな体が吹き飛び、壁に叩きつけられる。 それでも彼女はすぐに立ち上がり、頬を押さえてにっこり。
次の瞬間、チョンサの背中から淡い光の翼が広がった。 彼女は一気に加速し、天秤の懐へ飛び込む。 拳銃を捨て、両手を天秤の頬を強く掴み、顔を近づける。
「――リトリビューション」
そのまま勢いよく引き寄せ、唇が、激しく重なった。
「ん……っ!?」
天秤の白い瞳が大きく見開かれる。 完璧な左右対称だった顔が、初めて大きく歪む。 頬が一瞬で真っ赤に染まり、耳まで熱を帯びる。
「ん……っ」
天秤の白い瞳が、初めて揺れた。 完璧だった左右対称の顔が、ほんのわずかに歪む。 頬が、ゆっくりと桜色に染まっていく。
「……な、何を……」
チョンサは唇を離すと、悪戯っぽく微笑んだ。
「バイバイ」
次の瞬間、天秤の体が金色の砂へと変わり始めた。
天秤の体が、金色の砂へと急速に分解し始める。 足から、膝から、腰から、胸から、肩から―― 280cmの巨体が、まるで砂時計の砂のように崩れ落ちていく。
「こ、れ…は……何……?」
天秤は崩れゆく自分の腕を見下ろし、頬を真っ赤に染めたまま、呆然と呟く。 白い瞳に、初めて「感情」が宿っていた。 戸惑い、羞恥、そして――ほんのわずかな、甘い疼き。
金砂は渦を巻きながら天井を突き抜け、空へ舞い上がる。 最後に残った天秤の顔が、チョンサをじっと見つめた。 その瞳は、もはや審判者のものではなく、ただ一人の「人間」として、彼女を映していた。頬にはまだ赤みが残り、瞳は少し潤んでいる。
「……不……均衡……とても……甘…い……」
最後のつぶやきとともに、一粒の金砂が月光に溶けるように消えた。
チョンサはゆっくりと着地し、唇に指を当てて微笑んだ。
「またね」
法廷に残ったのは、甘酸っぱいレモンの香りと、 静かに輝く金の輪の光だけだった。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。