第4話

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2026/02/16 09:00 更新














you
you
 ダメだ、書けない… 




  東京都内の某マンションの一室。
  私の溜息だけが部屋に響いた。

  キーボードのエンターキーを押したあと、
  高機能チェアに深く背中を預けた。
  パソコンの画面に連なる言葉、最後の行で
  点滅したまま止まっているバー。
  ノルマはあと何文字…?と考えていると、
  後ろのドアが開いた。



Kokona
Kokona
 おつかれ〜あなた!
 いや、HINA先生?(笑) 
you
you
 ココナ…わたし、もう限界… 




  ココナは私の大学からの友達で、
  私の担当の編集者。
  この若い歳で編集を任されているのは、
  ココナがかなりの実力者だから。



Kokona
Kokona
 最近詰めすぎなんじゃない? 
 大丈夫そ?
you
you
 あと1ヶ月で仕上げなきゃだし… 
 焦っちゃって





  私は鮫川あなた。著名は… '' HINA ''

  3年前の大学4年生の時に、新人賞の下位に
  作品が受賞したした。
  大学卒業後は大手出版社に所属し、
  念願の新人賞を勝ち取った。

  それから年に2冊ほど、無理のない範囲で
  執筆を続けているけど、
  どうも新人賞並のヒット作が来ない。





Kokona
Kokona
 あなたはあなたらしい言葉で、
 読者の皆さんに言葉を届ければいいの 
 良いものを書こうとしちゃダメ
you
you
 ……それは、わかってるよ 
Kokona
Kokona
 はい、じゃあ今日はもう終わり! 
 切羽詰まってるあなたに
 良いものを教えましょ〜
you
you
 良いもの…? 
Kokona
Kokona
 ふふ、じゃーん!最近流行ってる
 匿名で話せるチャットアプリだよっ! 
you
you
 チャットって…
 私、そうゆうの苦手で… 
Kokona
Kokona
 いいのいいの!こうゆうのは
 やってみないとわかんないんだから!
 ここならHINA先生じゃなくて、
 25歳のあなたとしていられるんだよ? 
you
you
 うーん…ココナがそこまで言うなら、 
Kokona
Kokona
 よっしゃ!そうこなくっちゃ! 




  ココナに押されるようにして、
  匿名チャットアプリ『Light』をインストールした。
  名前しか登録するところがなくて、
  とりあえず、苗字の鮫川から取って、
  ''サメ'' の絵文字にしてみた。













  深夜。お風呂から上がって髪を乾かした私は、
  なんとなくアプリを開いてみる。

  色んな言語が飛び交っていて、
  独り言のような呟きが多い。


you
you
 すごい、色んな人が使ってるんだ…あ 




  私はふと、韓国語で書かれたある人の呟きで
  スクロールしていた指を止めた。

  翻訳ボタンで見てみると、'' 言葉を紡ぐのが怖い ''
  と書いてある。


you
you
 ( 今の私みたい… ) 




  私は何を思ったのが、翻訳アプリを開いて、
  自分の言葉を韓国語に翻訳し、それをコピーした。

  そして恐る恐る、その呟きの返信を押して、
  コピーした文章をペーストした。

  少し躊躇ってから、送信を押す。


you
you
 なにしてんだろ、私… 




  自分に問いかけるように笑ったあと、
  私はスマホを閉じた。

  年齢も性別も分からない、言語も違う
  海の向こうにいるはずの誰かに、
  私は良かれと思って、自分の言葉を投げ掛けて
  しまった。

  自分のように、言葉を ''恐れて'' いたから。



you
you
( 画面の向こうの誰かが、この言葉に励まされれば、
 それでいい )




  この時の私は、まさかそれから何日も、
  顔も年齢も知らない相手とチャットが続いている
  なんて、思ってもいなかった。





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