東京都内の某マンションの一室。
私の溜息だけが部屋に響いた。
キーボードのエンターキーを押したあと、
高機能チェアに深く背中を預けた。
パソコンの画面に連なる言葉、最後の行で
点滅したまま止まっているバー。
ノルマはあと何文字…?と考えていると、
後ろのドアが開いた。
ココナは私の大学からの友達で、
私の担当の編集者。
この若い歳で編集を任されているのは、
ココナがかなりの実力者だから。
私は鮫川あなた。著名は… '' HINA ''
3年前の大学4年生の時に、新人賞の下位に
作品が受賞したした。
大学卒業後は大手出版社に所属し、
念願の新人賞を勝ち取った。
それから年に2冊ほど、無理のない範囲で
執筆を続けているけど、
どうも新人賞並のヒット作が来ない。
ココナに押されるようにして、
匿名チャットアプリ『Light』をインストールした。
名前しか登録するところがなくて、
とりあえず、苗字の鮫川から取って、
''サメ'' の絵文字にしてみた。
深夜。お風呂から上がって髪を乾かした私は、
なんとなくアプリを開いてみる。
色んな言語が飛び交っていて、
独り言のような呟きが多い。
私はふと、韓国語で書かれたある人の呟きで
スクロールしていた指を止めた。
翻訳ボタンで見てみると、'' 言葉を紡ぐのが怖い ''
と書いてある。
私は何を思ったのが、翻訳アプリを開いて、
自分の言葉を韓国語に翻訳し、それをコピーした。
そして恐る恐る、その呟きの返信を押して、
コピーした文章をペーストした。
少し躊躇ってから、送信を押す。
自分に問いかけるように笑ったあと、
私はスマホを閉じた。
年齢も性別も分からない、言語も違う
海の向こうにいるはずの誰かに、
私は良かれと思って、自分の言葉を投げ掛けて
しまった。
自分のように、言葉を ''恐れて'' いたから。
この時の私は、まさかそれから何日も、
顔も年齢も知らない相手とチャットが続いている
なんて、思ってもいなかった。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。