時は少し遡り、体育祭後_____
悠黄は夕日に背を向けて空き地の前に立っていた。
今でも律儀に道路の端に瓶が置かれ、花が生けてある。
それが加害者からのだと思うと、モヤのようなものが悠黄の心にこびりついて離れなかった。
さっき聞いたような後輩の声。
理由を知っているから、悠黄のことを唯一『アニキ』と呼ばない人物。
悠黄はゆっくりと振り返った。
思った通りそこには、
空樹がいた。
荒れていた息を整えると、空樹は獅子に近付く狐のように
恐る恐る歩み寄った。
雑草が自由奔放に生い茂る空き地。
空樹はそのどこかを見ていた。
黄色い菊って、と空樹は悠黄を見上げた。
その顔は逆光でよく見えない。
何故それを口にしたのかは説明もせず、空樹はまた視線を
空き地に戻した。
悠黄は目を丸くして、空樹を見下ろす。
空樹は何か思うこともなく、ただ独り言のように言った。
ああ、そういえばと悠黄はぼんやりと思い出す。
あの日、加害者の子供と見慣れた担当医がなにか話していたなと。
そして、空樹とあの子供は妙に似ているなと。
空樹はじゃり、と地面を踏みしめた。
悠黄は空樹を帰るよう促す。
高校生とはいえ、そろそろ暗くなる時間だ。
最近は何かと物騒で、周辺も不審者情報が相次いでいる。
気が付けば、空樹の姿は消えていた。
そして前話まで戻る。
言葉を選んでいた悠黄は、くしゃっと空樹の頭を撫でた。
悠黄がにっと笑うと、空樹は目を伏せた。
悠黄は、空樹に背を向けて帰っていった。
いつもとは反対方向。どうやら予定でもあるらしい。
……なんて、誰にも知られたくない。
誰も知らないでいてほしい。
空樹は呟きを踏み潰すかのように地面に力を込めた。
長い下校路を一歩、また一歩と歩き始めた。
あの呟きを聞いていた人物がいるとも知らずに。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。