第6話

Ep.06 凪に溶ける2人①
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2026/02/27 08:23 更新









スキャンダルの件について、
事務所はついに「事実無根」という公式声明を出した。

この数日間、SNSをどす黒く染め上げていた憶測の嵐に対し、事務所が放ったその無機質な一文は、予想以上に鮮やかな特効薬となった。

声明の反響は凄まじく、
瞬く間に「事実無根」の文字がトレンドを独占。
法的措置を辞さないという強い姿勢に、
過熱していた世論は一気に沈静化へと向かった。

🐰
🐰
……そりゃ、そうだよな


俺はソファで丸まり、自分のスマホの画面を見つめた。

拡散されていた写真は、確かにスンミンだった。
けれど、夜の暗闇と焦った撮影者の指先の震えが、
絶妙な手ブレを生んでいた。

決定的な証拠にはなり得ない、
その「曖昧さ」が、今回ばかりは味方したのだ。

何より大きかったのは、キム・スンミンという男が
積み上げてきた、鉄壁の誠実さだった。

練習熱心で、スキャンダルとは無縁の優等生。
その彼が「違う」と言い、事務所が「事実無根」と断じるのなら、それは真実なのだ――
ファンも、そして世間も、そう信じることを選んだ。

あの日、あいつの隣で水色のワンピースを揺らしていたのが、まさか同じグループのメンバーである
『Lee know』だとは誰一人として想像すらしていない。

🐰
🐰
アイツの真面目さに救われたな…


皮肉なものだ。
あいつの積み重ねてきた信頼という防護壁が、
俺たちの「嘘」を守り抜き、
この最悪の事態を幕引きさせた。

外の世界を覆っていた重苦しい圧力が消え、
ようやく肺の奥まで空気を吸い込めるような
解放感に包まれる。

その安心感に身を任せるように、俺はその夜、
久しぶりに深く、泥のような眠りに落ちた。















そうして俺は、数日ぶりに、
どこまでも静かで目覚めの良い朝を迎えていた。

カーテンの隙間から差し込む光が、
寝室を淡く照らしている。

🐰
🐰
……ん


隣から伝わってくる、規則正しい寝息と、
布団越しの確かな熱。

俺たちにはそれぞれ個室があるはずなのに、
この大型犬は、騒動以来当然のように
俺のベッドの領土を侵食して寝るようになった。

🐰
🐰
本当、犬みたいだな…


寝ぼけ眼で、
枕元に置かれた例の小さな箱に手を伸ばす。

スンミンに義務付けられた、毎朝の『儀式』。

こいつに言われるまで、舌の下で測る体温なんて、
この世に存在するとは知りもしなかった。


ピピピッ、ピピピッ。


計測終了を告げる電子音が、静かな寝室に響く。
合図だったかのように、隣の塊がモゾリと動いた。

🐶
🐶
……ん。……基礎体温? 
……貸して、グラフつけるから


起きたばかりの掠れた声。
スンミンは半分閉じたままの目で体温計を受け取ると、
そのままベッド横の机に向かった。

あそこには、あいつが心血を注いで管理している、
俺の身体の記録ノートが鎮座している。

🐶
🐶
……おー。体温ってすごいな。
……ねぇヒョン、今日、
身体ダルかったりしない?
🐰
🐰
……あ? なんでだよ、別に普通だけど
🐶
🐶
今日は、排卵日っぽい


さらりと告げられた単語に、俺は顔をしかめた。

🐰
🐰
なにそれ
🐶
🐶
文字通り。
赤ちゃんの卵がヒョンの中にある日。
1ヶ月の中で、一番妊娠しやすい日だよ
🐰
🐰
へえ…


他人事のように相槌を打つ。

そういえば、あのスキャンダル騒ぎで有耶無耶になったけれど、あの夜、俺たちはホテルに行こうとしていた。

あれから数日、例のサプリだの栄養指導だのと、
この「管理者」の徹底した健康管理のせいで、
俺は完全にお預けを食らっていた。

🐰
🐰
(……今日、オフだよな)


ふと、身体の奥が疼くような感覚があった。

4月下旬の朝の空気はまだ少し冷たいけれど、
俺の中の「熱」は、
数日間の禁欲のせいで飽和状態に近い。

この堅物で理屈っぽい「保護者」の
固定概念を壊すには、言葉じゃ足りない。

🐰
🐰
ねえ、スンミナ。
……今日オフだし。……する?


俺の唐突な誘いに、
グラフをつけていたスンミンの手がピタリと止まった。

🐶
🐶
……ヒョン、僕の話聞いてた?
今日は一番、妊娠しやすい日なんだよ?
🐰
🐰
いいじゃん、別に。
……ゴム、つけりゃいいだろ
🐶
🐶
いや、万が一のこともあるし……。
ヒョンの人生に、僕が勝手なリスクを負わせるわけにはいかない
🐰
🐰
まーた始まったよ……


あいつは椅子を回して、
真面目くさった顔で俺を説得しようとしてくる。
その瞳は、いつだって俺の健康と未来を最優先に考えていて――それが今の俺には、最高にじれったい。

🐰
🐰
あー、そう。
お前がその気ならいいよ。
ハァ〜、それにしても、なんか今日暑いわ


俺はわざとらしく溜息をつくと、
シーツを跳ね除けてベッドの上に座り直した。

パジャマ代わりにしていた白いロンTの裾を掴む。

🐶
🐶
……ちょっと! ヒョン、何してるの!?


スンミンの制止も聞かず、
一気にそれを脱ぎ捨て、床に放り投げた。
朝の冷気が、剥き出しになった俺の肌を叩く。

スンミンが絶句したまま、
俺の身体を凝視しているのが分かった。
半年前に女性化した、柔らかな肩のライン。
薄い胸板だったはずの場所にある、
まだ自分でも見慣れない柔らかな膨らみ。

🐰
🐰
……暑いって言ってんだよ。
……ほら、どうすんだよ


俺は乱れた髪をかき上げ、あえて冷ややかな、
それでいて挑発的な笑みを浮かべてあいつを射抜いた。

🐰
🐰
お前、一生懸命本を読んで勉強してさ。
……結局、知識を詰め込んで満足してるだけの臆病者なわけ?
それとも、実践に移す勇気もないの?
🐶
🐶
…………っ


スンミンの喉仏が、大きく上下した。

あいつの瞳の奥で、理性を守っていた最後の防波堤が、
音を立てて決壊するのが見えた。

管理者の仮面が剥がれ落ち、
そこにあるのは飢えた獣の光。

🐶
🐶
……ヒョン。……本気で言ってる?


スンミンの声が、微かに震える。

🐰
🐰
本気も何も、俺らホテルに入ろうとしてただろ……。あの時からずっと、お預けくらってんの
🐶
🐶
……じゃあ僕が臆病者かどうか、
今すぐ教えてあげるよ











To be continued.

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