Side.T
自分たちのリハも終わり、楽屋に戻って少しの間、休憩をもらえることになった。
流輝が「たっくん、スマブラやろう」と声をかけてくるが、そんな気分になれず、「誰かとやっときな」とSwitchだけ渡して楽屋を出た。
あなたちゃんに会いたい。
その思いひとつで行動してしまう自分が怖い。でも、この機会を逃せば次にいつ会えるかもわからないから。
楽屋を探している途中、スタッフに紙とペンを借り、半ば殴り書きで自分のLINE IDを書いた。
また一緒に二人で踊る機会がほしい、とは言わない。ただ、繋がりがほしい。あの時のように。
数分歩いて、やっと見つけた。ちゃんみなちゃんのダンスクルーがいるであろう楽屋。
自分もバックダンサーをしていた経験から、大部屋にまとめられているのでは、という予想は当たっていた。
ドアの隙間から少し中を覗くと、部屋の隅でiPadを見ながら踊っているあなたちゃんの姿が目に入る。
さっきスタジオで見た振付とは違う。別の曲のコレオでも任されたのだろうか。
「あの、なにか御用ですか?」
「…あっすみません!」
ビクッと効果音が鳴ったんじゃないかと思うほど、心臓が跳ねた。今の俺は完全に楽屋観察してる不審者だ。恥ずかしい。
「すみません、あの、あなたちゃん呼んでもらえますか?少し、用があって…」
「あなた…ですか?少々お待ちください。」
明らかに「何の用だ」と言いたげな表情をした女性は、楽屋へ戻り、あなたちゃんのもとへ向かった。
……やばい。衝動的に来てしまったけれど、四年ぶりくらいに会うからか、心臓が口から飛び出しそうなほど緊張している。何を話すか、頭も回らない。
来たところで迷惑、だよな。
どんどんネガティブになる自分が嫌になり、壁に寄りかかって下を向いたまま、時間が過ぎるのを待つ。
「…たっくん…?」
懐かしい声が俺を呼ぶ。顔を上げると、動揺を隠しきれていないあなたちゃんが立っていた。
「久しぶり、あなたちゃん。」
この緊張が伝わらないように、挨拶をする。自分でも驚くほど、平然を装えていた。4年と時間が流れた分、会話はぎこちない。
それでも、今まで以上にあなたちゃんがどうしようもなく愛おしかった。
会話の流れで、柄にもなくあなたちゃんの頭に触れる。
「大きくなったね」なんて、親みたいなことを言って。……俺らしくない。
「…もう、子ども扱いやめて?」
「ごめんごめん(笑)久々に会えて嬉しくなっちゃって、つい」
冗談っぽく、ちゃんと言えていただろうか。余裕ぶることしかできない自分がちょっと情けない。
さっき書いた連絡先はポケットの中にある。
いつ渡すかタイミングを探っていると、背後から聞き慣れた声が飛んできた。
「たっくん!?誰!?その女の子は!!」
「かわいい〜女の子やん〜〜!!!!」
……最悪だ。面倒くさい人たちに見つかった。
聖人と直哉が「紹介して」とばかりに近寄ってくる。
うわ、紹介したくねぇ、と思いながらあなたちゃんの名前を告げる。たぶん、顔にも出ていた。
今じゃないだろ、って。
直哉の勢いに圧倒されているあなたちゃんに謝り、二人を楽屋へ戻そうとした、その時。
「そろそろ戻らなきゃ」と、あなたちゃんが仕事へ戻ることを俺に告げた。
まだ、連絡先を渡せていない。
このまま、また同じことを繰り返すのか?
そんなの、絶対に嫌だ。
そう思った瞬間、俺は大きな声であなたちゃんを呼び止めていた。
手を掴み、小さな紙切れを握らせる。
聖人と直哉が見ているのに。
「これ、俺の連絡先。…また会えない?」
「あ、え、うん、!!」
受け取ってもらえた。その事実だけで、胸がいっぱいになる。
笑うことしかできない俺を、聖人と直哉は少し驚いた顔で見ていた。
いつも控えめなリーダーが、こんなことをするなんて思わないだろう。
連絡が来るかどうかはわからない。
でも、俺は今できることをやった。
あなたちゃんにまた会える可能性が、1%でもある。
それだけで、心が躍った。
俺は、あなたちゃんがどうしようもなく、好きなんだと認めざるを得なかった。











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!