人間は、神と悪魔との間に浮遊する。
-ピエール・パスカル『パンセ』より。-
早かれ遅かれ、
そういう運命だったのかもしれないと思わざるを得ない。
よろけるように立ち上がる彼女の腕をヨンジュンが支えて、
玄関口に彼女が近づく。
見知らぬ女に名前を呼ばれ、テヒョナは警戒の色を瞳に宿す…と、
思っていたのに。
「…やっぱり、2人は運命だったんだねえ」
“…そうらしいな”
引っ込んできた僕を座ったままのヨンジュンが
優しい瞳で見上げる。
そして、2人でテヒョナと彼女の方へ目をやる。
あろうことか、テヒョナは彼女の名前を呼んだのだ。
T;「…あなたちゃん」
『…テヒョナ、』
『……え、なんで私の名前…』
T;「…覚えてるよ、だって君は僕の、」
T;「…初恋、だったんだよ」
火炙りの炎の中でも、想っているのはあなただけだった。
あなたにまた生まれ変わって会えると思ったら
心の中で炎が燃えて、火も苦じゃなかったんだから。
そう、告げるテヒョナの目に映る愛おしさ。
T;「遅くなってごめんね」
T;「…契約、今からでも間に合う?」
『…ばか………』
T;「ねえボムギュヒョン、あなたちゃん連れて帰ってもいい?」
「あなたがいいなら、いいんじゃない?」
『…ボムギュ……』
ああ神様、今度こそは。
正義感溢れる彼と、
そんな彼を愛してしまった彼女を引き剥がさないであげて。
形は変われど、こうやってまた出会えたんだから。
2人を快く送り出して、部屋に戻ると、
ヨンジュンが小窓に腰掛け、夕焼けに染まった窓の外を見ていた。
一気に色んなことが起こりすぎて疲れた。
そう、ベッドへ寝転ぶ僕を一瞥したあと、
片方の口角をゆっくりあげて、
その形のいい唇から言葉が紡がれる。
“なあ、最初に会った日のこと、覚えてるか?”
「最初に…ああ、覚えてるよ」
“…ボムギュ、こっちに来て”
「?…うん」
窓辺に寄った僕の腕を、ヨンジュンが優しく掴む。
それから、楽しそうに、妖しげに、赤い目をしてこう言った。
“お前はさ、飛んでみたいって思ったことない?”
「うーん…あるといったらあるかも…」
“じゃあ、今から行こう”
「え?」
ヨンジュンに姫抱きにされたかと思えば、ふわっと体が宙に浮く。
それから、高く、高く。
落ちたりはしないって、なんとなくわかった。
“…ちゃんとお前は、あなたが好きだったんだね”
「…え?」
“愛せてたよ、お前はそれで正解”
“でも…そんな辛いことも、夢では綺麗さっぱりさ”
飛んでいくんだ。
辛さを忘れるように、心の穴を埋めるように。
目元から溢れる涙が、雨となって地面を濡らしていく。
どうかこれが、2人を祝う祝福の雨となりますように。
ヨンジュンは僕の耳元で、こう囁く。
"Dream on, dream on, dream on"












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!