第20話

#20
527
2025/02/20 09:00 更新
       人間は、神と悪魔との間に浮遊する。

       -ピエール・パスカル『パンセ』より。-








早かれ遅かれ、
そういう運命だったのかもしれないと思わざるを得ない。



よろけるように立ち上がる彼女の腕をヨンジュンが支えて、
玄関口に彼女が近づく。

見知らぬ女に名前を呼ばれ、テヒョナは警戒の色を瞳に宿す…と、
思っていたのに。



「…やっぱり、2人は運命だったんだねえ」

“…そうらしいな”



引っ込んできた僕を座ったままのヨンジュンが
優しい瞳で見上げる。



そして、2人でテヒョナと彼女の方へ目をやる。

あろうことか、テヒョナは彼女の名前を呼んだのだ。



T;「…あなたちゃん」

『…テヒョナ、』

『……え、なんで私の名前…』

T;「…覚えてるよ、だって君は僕の、」

T;「…初恋、だったんだよ」



火炙りの炎の中でも、想っているのはあなただけだった。

あなたにまた生まれ変わって会えると思ったら
心の中で炎が燃えて、火も苦じゃなかったんだから。

そう、告げるテヒョナの目に映る愛おしさ。



T;「遅くなってごめんね」

T;「…契約、今からでも間に合う?」

『…ばか………』

T;「ねえボムギュヒョン、あなたちゃん連れて帰ってもいい?」

「あなたがいいなら、いいんじゃない?」

『…ボムギュ……』



ああ神様、今度こそは。



正義感溢れる彼と、
そんな彼を愛してしまった彼女を引き剥がさないであげて。

形は変われど、こうやってまた出会えたんだから。



2人を快く送り出して、部屋に戻ると、
ヨンジュンが小窓に腰掛け、夕焼けに染まった窓の外を見ていた。



一気に色んなことが起こりすぎて疲れた。

そう、ベッドへ寝転ぶ僕を一瞥したあと、
片方の口角をゆっくりあげて、
その形のいい唇から言葉が紡がれる。



“なあ、最初に会った日のこと、覚えてるか?”

「最初に…ああ、覚えてるよ」

“…ボムギュ、こっちに来て”

「?…うん」



窓辺に寄った僕の腕を、ヨンジュンが優しく掴む。

それから、楽しそうに、妖しげに、赤い目をしてこう言った。



“お前はさ、飛んでみたいって思ったことない?”

「うーん…あるといったらあるかも…」

“じゃあ、今から行こう”

「え?」



ヨンジュンに姫抱きにされたかと思えば、ふわっと体が宙に浮く。



それから、高く、高く。



落ちたりはしないって、なんとなくわかった。



“…ちゃんとお前は、あなたが好きだったんだね”

「…え?」

“愛せてたよ、お前はそれで正解”

“でも…そんな辛いことも、夢では綺麗さっぱりさ”



飛んでいくんだ。



辛さを忘れるように、心の穴を埋めるように。

目元から溢れる涙が、雨となって地面を濡らしていく。



どうかこれが、2人を祝う祝福の雨となりますように。



ヨンジュンは僕の耳元で、こう囁く。



"Dream on, dream on, dream on"

プリ小説オーディオドラマ