ㅤ雪ちゃんもといマスコットを失くして、もう1週間経とうとしている。あの日の放課後、1時間近く梨央ちゃんに付き合って探してもらった。職員室に落し物として置いてないか確認した。学校から家までの道も確認した。
ㅤそして、まだ見つかっていない。
ㅤ正直、半分くらいこう思いかけている。梨央ちゃんは無くしたことに気づいた次の日も一緒に探そうとしてくれて、流石に申し訳なくて「見つからなかったら同じの買うよ」と笑って流した。でももう半分はやはり悲しい。
ㅤ強がってはみたものの、ああいうものは、友達とのお揃いは無くなったら買い足すで済ませられないと思う。同じ物を買ったとして、あの日買った最初の雪ちゃんへの未練が簡単に晴れるのか?
ㅤ今学校に着いたばかりだけど、早速今日の放課後の予定を立てながら1人になるためにトイレに向かう。そうなると今日も梨央ちゃんと一緒に帰れないけど。
ㅤ一旦教室に荷物を置いて女子トイレに入ると、手洗い場の前に先客がいた。千春ちゃんだった。
ㅤ千春ちゃんは洗っていた手の動きを止めて少し私の方を見たくれたけど、微かに首を動かしまた自分の手元に視線を戻した。……私って、千春ちゃんに嫌われてるのだろうか。勘違いかもしれないけど、最近たまに思ってしまう。
ㅤよく考えたら梨央ちゃんといる時も私には喋りかけてくれることってないし、稀に2人になっても今みたいに大人しいし。まぁ人見知りなだけか。
ㅤそのまま後ろに立っていたら、千春ちゃんは何やら手を洗い終えると乱雑に手を振って水滴を落とし、急いだような手つきでポケットを探っている。
ㅤ早く1人になりたいんだろうなと思い、一番目の個室のドアノブに触れかけたところでドサッと音がした。気になって2歩くらい後ろに下がる。千春ちゃんの肩にかけていたスクールバッグが原因だったらしい。
ㅤとはいえこの状況で無視するのも素っ気ないよなぁ。安直にそう感じた私は、近寄って一緒に散乱した千春ちゃんの荷物を拾おうことにした。

ㅤ先に手に取ったのは千春ちゃんだった。千春ちゃん、これさ……。私が言いかけるより前に、普段ののんびりしているイメージな千春ちゃんと思えない機敏さで。
ㅤでも、今度は私が引き止めるスピードの方が早かった。スクールバッグのファスナーをしめる事さえ後回しにして立ち去ろうとしていた千春ちゃんだったけど、なにか思う事があるのか素直に立ち止まってくれた。
ㅤでもこれ、なんて切り出せばいいんだろう。まだ確定した訳じゃない。私の勘違いかもしれない、千春ちゃんは大人しい子だけど、悪い子には思えない。でも、引き止めたからには。
ㅤ千春ちゃんは、思っていたよりずっとあっさり、それを私に渡してくれた。ということは、このマスコットは雪ちゃんと確定したことになるけど。なんで千春ちゃんが、今になって?
ㅤ千春ちゃんは酷く怯えていて、その全てを言い終えるのにも20秒くらいかけていた。俯いて、声は震えていてか細いし、スクールバッグの持ち手を握る指先はいつもより青白く見える。
ㅤいつも梨央ちゃんを介して話すから、初めてちゃんと千春ちゃんの感情を見た気がした。ただでさえこの状況に対して困惑しているのに、こんなにも怖がられるとどうしていいか分からない。
ㅤ一応優しく言ったつもりだったけど千春ちゃんはまだ俯いたまま、このまま泣き出してしまうんじゃないかとハラハラする雰囲気だった。
ㅤあまりの気まずさから私の方が先に女子トイレを出て、廊下であの日のままの雪ちゃんを大切に撫でながら、そういえばトイレに行ったのにトイレをせずに出てきてしまったことに気づく。
ㅤ今戻ると再び千春ちゃんに会うのは確定なので、とりあえず教室に戻ろうとしたのだが、タイミングがいいのか悪いのか、後ろから梨央ちゃんの声がした。
ㅤ私より必死になって探してくれていた梨央ちゃん、すぐに私の手元の白いふわふわに気がついたらしい。今日も梨央ちゃんのスクールバッグにはそっくりなマスコットがぶら下がっている。
ㅤ嘘はついていない、はずだ。










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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!