桜散る頃、体育館から穏やかなカノンのメロディが流れてくる。
「卒業証書授与…」
1組から担任の先生が名前を読み上げていく。
それを待つ間今までのことが一気に思い出される。
女子生徒が座る席の方からは啜り泣き声も聞こえてきて
この学校とももうお別れなんだと嫌でも思い知らされる。
先生に叱られてばかりいたヤンチャな生徒もこの日ばかりは姿勢よく座りただただ、前を見つめている。
太ももの上に置かれた握り拳…
涙を必死に堪える姿、
春の訪れを感じる暖かい春風が柔らかく吹き抜けていく
僕はひとりひとり生徒の名前を読み上げる。
大きな返事をして壇場へと上がっていく僕の生徒達…
その姿に涙が溢れそうになる…
みんな立派になったな…
………
次はキムテヒョン…
ふぅ…
マイクに拾われないように小さな深呼吸
引っ込み思案なテヒョンくんの立派な返事に涙が溢れそうになる。
いや、まだ泣いちゃいけない…
僕は必死に堪えながら卒業証書授与をやりとげた。
それから長い校長先生の話や卒業生代表の挨拶、
淡々と進行通り進んでいく。
そして最後のプログラム…
高校生活、最後の全員での合唱
ピアノを弾く女子生徒が壇上へ上がり挨拶をする。
その生徒の緊張が体育館にいる生徒、先生、保護者のみんなに伝わる
こんな大役を引き受けたくれた生徒に感謝の敬意を込めて、そして卒業生を力一杯見送るために、
指揮者の合図で先生たちも左右に少し足を開いて…
ピアノから流れてくる「Believe」のイントロ
イントロを聴くだけで込み上げてくるものがある。
僕は目を閉じてこれまでの1年間を思い出す。
「例えば君が傷ついて、挫けそうになった時は」
「必ず僕がそばにいて、支えてあげるよ」
「その肩を…」
初めて顔を合わせた日、ただ「キムテヒョンです」
それだけの自己紹介だったよね…
いつもジミンくんを追いかけてダンスを見学行ってたね。
話しかけてもそっけなくて…
でもある日渡り廊下に飾られている僕の絵を見て
「僕も絵を描きたい」って
そう言ってくれた時は本当嬉しかったよ…
「この地球は回ってる」
「今未来の扉を開ける時」
「悲しみや、苦しみが」
「いつの日か喜びに変わるだろう」
「 I Believe in the Future 〜信じてる〜」
大人になって聴くとこの歌詞の意味が分かる…
いや、学生の頃もわかっている気でいたけど、
今聞くとまた違った聞こえるんだ。
今辛いことがあってもそれは君たちのためになるんだって、乗り越えたその経験が必ず自分のものになってそれが自分の強さ、優しさになるんだって…
僕はこの歌を通して君たちに伝えたい
少し下を向きながら目を閉じて歌うその姿は誰もが見惚れた
ジョングク先生が歌うと不思議なくらい甘くて切ない歌に聞こえた。
ふわっと入り込んできた春風に髪が揺られて、桜の香りがした。
優しい香りと共にこの時初めて涙が溢れた…
続く















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!