兄さんはいつも味方してくれた
兄さんの前なら僕は心から笑うことが出来た
無理矢理口角をあげるのではなく、自然に緩む笑顔
僕は兄さんの目に宿る星を穢したくなかった。
だから僕は隠し通した。
汚れた体も、心も、全て
でも、あの日
僕は、僕が
壊した
…それは冷たい雨の日だった
止む気配のない滝のような雨が地面を突き刺すかのように降り注いでる。そんな激しい雨だった
傘はあいつらに隠されたから、貸し出し用のビニール傘を刺して下校していた
…今日は、なぜかあいつらは襲ってこなかった
今日は、雨の日だから早く帰りたくて見逃してくれたのかな
……なんて奇跡
願わなければよかった
目の前は霧が立ちこめたかのように雨のせいで視界がかなり悪かった
そこを
その背中を
ドンッ
誰かに乱暴に押された。明らか兄さんの手じゃない
後ろからあいつらの笑い声が聞こえてきた
僕は地面にばらまかれた教科書とノートを拾い集める
眩しい
…眩しい?
僕は恐る恐る光の方向をみた
それは、トラックのライトだった
信号無視して、スピードも少しも落とさず此方に発進してくる
この雨のせいで僕の姿は見えていないのか
僕の間合いにトラックが突っ込んだ瞬間
周囲が映画の緊迫したシーンみたいにスローモーションになった
落ちてきている雨は雫となって一滴一滴数えれるくらいには停止していて
周りの音も、風の音も、全て遅く聞こえて、肝心のトラックも減速しているようだった
僕は避けようとするけど、体が重い、鉛のように
自分もゆっくりになっているんだ
あぁ、死ぬんだとここで悟った。不思議と死への恐怖はなかった
本当、最後の最後で最悪な人生だった
僕はゆっくりと目を閉じた
でも
衝撃は横から来た、正面からじゃない
誰かに、押されたんだ
僕は向こう側に倒れる
生きていた
トラックは、通り過ぎていったのか?と地面に打った頭を抑えながらよろよろと立ちあがった
その直後
ドォンと鈍い音が響いた
金属が、何か、肉の塊にぶつかったかのようなそんな音
目の前に見えたのは、僕と同じ金髪に水色のメッシュが入った綺麗なサラサラとした髪
青くて僕には少しブカブカだった、でも柔軟剤のいい匂いがして、それに抱き付くのが好きだった学ラン
カランカランと情けない音を立てて転がっていく水色のヘッドフォン
理解できなかった、理解したくなかった
雨の匂いに混じり、鉄の匂いが、地面に広がる赤と比例して濃くなっていく
僕は震える足で……彼に寄る
声が震える、こんなの、現実じゃない
嘘であって欲しかった、夢であってほしかった
兄さんは血塗れになった体で横たわりながら力無く笑いかけた
僕の視界は雨のせいなのか、涙のせいなのかわかんなくなるほど滲んでいた
救急車と、パトカーのサイレンの音が酷く遠く聞こえる
それは、いつも兄ちゃんが僕に言ってくれた魔法の言葉
でも、その言葉は…今
僕にとっての
“呪い”になった
その後、母さんは病状が悪化して病死
父さんは二人の死を苦に自室で首を掛けて亡くなった
………
思い出したくない
兄ちゃんの学ランを羽織りながら、僕はただ天井を見上げる
そっか
僕が
僕が
家族は















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!