記録というものは血が流れない。
だからこそ、記録を書く人間だけが痛みを覚える。
黒塚芳雄の瞳に、恐怖は一滴もなかった。
あの指の動作は、観測者として完璧だった。
だが――その完璧さの中に、何かが欠けていた。
観測した者と観測された者、その距離を埋める何かが。
私の取材ノートの隅には、焦げたような金色の線が走っている。
あれは照明の写り込みではない。
何を撮ったのか、自分でも説明できない光の軌跡だ。
誰もいない深夜の編集室で、それを見つめていると、
ふと、あの落下した光が自分を覗き返している気がした。
もしそれが“人”だったなら、
私は記事をどんな言葉で終わらせただろう。
――「観測終了」
あの言葉はあまりに冷たく、あまりに美しい。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!