お母さんはリビングから出ていったと思えば,すぐに小さな箱を抱えて戻ってきた。
箱の中に入っていたのは,茶髪で長髪のウィッグに茶目のカラコン。
そしてメガネが入っていた。
今自分が置かれている状況が全く分からず首を傾げていると,お母さんは苦虫を噛み潰したような顔をして,口を開いた。
そ,それは流石に……,,。
まあ確かに私は髪は白いし目は赤色だからどうしても悪目立ちしちゃうだろうけど……。
多分ちんちくりんだから睨まれる程度じゃないかなぁ…?
いや睨まれるのも嫌だけどっ…。
私が行くって決めたんだからケジメも何も無いんじゃないかな……,あはは………。
でもお母さん,本当に心配そうにしてるしなぁ……。
私は洗面所に向かい,全ての変装アイテム?を着けた。
そうすると,私の面影は全くと言って良い程無くなった。
これ……,漫画で言えばいじめられっ子の見た目じゃない…?
………髪も長いし,二つに結っておこう……。
私はリビングに戻り,お母さんにお披露目した。
すると,目が見開いていった。
この地味な姿にお母さんは納得したご様子。
これならもしかしたら,男の子も態々話し掛けてこないだろうし……,大丈夫,だよね!
私はそう無理矢理思い,西園寺学園へ行くまでの時間を過ごした。
丘の上に聳え立つ,大きすぎる校舎の前で,私はそう呟いた。
き,今日から此処に通うんだよね…?
設備が豪華だっ……。
えっと……,事前に正門前で待つようにって先生言ってた筈……。
びっくりしたぁっ………!
いきなり話し掛けられたから声が裏返ってしまった……,,恥ずかしい………。
って言うか,この声はもしかして男の人……!?
そう思い私は振り返った。
わ,わあ……,綺麗な人………。
私の目の前に立つ彼は,とても綺麗な顔立ちをしており,メガネをかけていた。
一言で言えば,『綺麗系のイケメンさん』って感じの人。
こんな時期…?
季節が移り変わる時期だし……,丁度良いよね?
てゆうか,二人目,か……。
私と同じであの編入試験を突破してきた子かな……?
女の子だったら良いな……。
今さらっと見た目貶したよね…?
確かに今の見た目じゃ言われても仕方無いかもだけど……。
そう言い捨て,私に背を向けて歩き出した男の人。
裏口編入のこと聞きたいけど……,怖いっ……!
私は聞くか迷ったが,そのまま彼に付いて行った。
そして歩いて少し立つと,徐々に校舎が見えてきて人も増えてきた。
今日は平日で今は昼休みの時間だし,人がいっぱい居るなぁ……。
流石全寮制で県内トップの進学校……,地元の中学とは生徒数が比になら無いほどの人だかりだ……。
それにしても………。
女の子達からの視線が凄い……。
まあそりゃそうだよね,こんな綺麗な人だもんっ……!
皆目をハートにしながら彼の方……,東先輩の方も見ている。
とゆうか,こんなに視線を集めて気にならないのかな……。
でもこれは東先輩にとっては日常茶飯事なのかも。
う……。
これ絶対私のことだ……,てゆうか私しかあり得ないよね………。
くすくすと笑い声が聞こえ,恥ずかしさと東先輩への申し訳無さが募る。
こんなのが歩いてごめんなさい………。
つい反応してしまった……。
ってそれより,聞こえてたんだ……。
やっぱり日常茶飯事何だろうな。
それにしても,初めて会った上に男の人だったから少しだけ安心したな。
きっと,良い人だよね。
まだ慣れるのには時間が掛かると思うけどね……。
私は一人,誰にも聞こえないようなか細い声でお礼を言った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!