おつかいというかパシリ、だな。これは。
『ジャンケンして負けた人がアイスおつかい』
ダンスレッスンの休憩中に提案されたのをきっかけに始まったジャンケン大会。
負けたのは私とミンジュオンニ。
一人は流石に大変だからともう一人を付き添いに。
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会計を済ませてコンビニを出た瞬間、どこか見覚えのある人影を見た。
あぁ、あの人だ。
すぐにそう思った。
多分あれは山の方向だろう。また登るのだろうか。あの急斜面を、あの長い階段を。
ミンジュオンニの声ではっと我に返り、また空間が動き出す。
セミの鳴き声がさっきよりも五月蝿く感じる。
不思議だ。見ず知らずの人に対してこんなにも興味をそそられるとは、どうしたものか。
アイス、溶けないといいなあ。
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『今日のレッスンが終わったらあの山に行こう』
好奇心がこんなにもそそられるとは思ってもみなかった。
それに、今日のレッスン中もずっとあの人のことが気になって仕方がなかった。
流石にそわそわしすぎたのか、オンニ達からも心配された。
居る。あの人が。
それは、長い旅路を経た末にようやく見つけた財宝かのように思えた。
また影に潜むように佇んでいる。
その姿を見てようやく安堵した。まだ消えていない、と。
相手もこちらに気付いて、会釈をしてくれた。
それを合図にこっちから近付いてみて、
少し勇気を振り絞った声に、相手も潔くこんにちは、と返してくれた。
はた、と目が合った。
どこかで見た顔。
私は、この顔を知っている。
けれど、上手く思い出せない。
なんだろう、この違和感は。
なんだか、こんなこと前にもあったのでは…?
大層変わった人だ。それほど思い入れのある場所なのだろう。
変なことを口走ってしまったのは分かってるけど、____まだ私の呼び起こされていない記憶と共に____それ以上に彼女のことが気になった。
快い彼女の返答を聞いて、また胸が疼いた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!