第31話

思い上がり
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2026/02/13 16:00 更新
結局、なんであそこに元カレが居たんです?
場所は彼女の部屋。

面倒な粘着男を撒いた後、遠回りして、彼女の家に来てしまった。自分から行きたいと言ったわけではない。彼女が自分の手を引いて、ここまで連れてきたのだ。よくもまあそんな無防備なことをする、と思う。
あなた
ん?ああ……仕事帰りに、会っちゃったんだよ
仕事帰りって……今、昼間ですけど
あなた
うちの職場は不規則なブラック企業なんですー
不貞腐れたように言う彼女は、少し疲れたような見た目をしていた。
そういえばそうだったな
呟くと、彼女はうなずいた。
というか、じゃあ、なんで俺はここに連れられてきたんです
「じゃあ」という言葉を用いるわりに、質問内容は一貫性が無いように感じたが、それはさておき、俺が尋ねると彼女は一瞬あっけらかんとして、それから当たり前のように言った。
あなた
なんとなく、だけど
はい?

部屋に沈黙が落ちる。詐欺師は、なんで黙るの?とでも言いたげな表情だった。
あなた
でも、黙ってついてきてくれたってことは幼児とかなかったってことでしょ?
……
確かに、と納得してしまう自分がいた。そもそも、彼女のことは好いていて、彼女の家に来ること自体嫌ではないのだ。だから拒むわけがない。こんなにも判断を放棄するのは、思考をぱたりと閉じてしまうのは、相手が真宵あなたの下の名前彼女だから、であって。

あなた
ふふ。その沈黙は肯定かな?
煽るように言う彼女が恨めしい。少し睨んでやると、「えっ急にどったの。もしかしてやっぱり嫌だった?」だとか慌てている。だから、別にそういうわけではない。それにしても此奴は何もわかっていない。俺が何を思っているか、気にも留めないで、この人は。呆れながら、ため息をつくとやっぱり彼女は困惑していた。
あなた
もしかして機嫌悪い?ごめんて。なんかおかし食べる?
そういうのじゃないです
あなた
えーと、確かここらへんに……
俺の話を聞いているのかいないのか。彼女はキッチンの方へ行って棚をあさっている。それから「お、あったあった」と何か袋を持ってやってくる。袋は黄色を基調とした色合いで、リング状のスナック菓子のイラストが描かれている。
あなた
いる?
だからいりませんって……
あなた
ほら、お食べよ
彼女は袋の口を開けて、俺に向ける。
人の話聞けないんですか
俺は言いながら、袋の中に手を突っ込んで菓子をとっていた。口に放り込むと、ほどよい塩味が広がる。苦手ではない味だ。かといって特別好きというわけでもないが、手は再び袋へと伸びる。
あなた
やっぱり食べるんじゃん
………
あなた
それどういう表情?
俺の嫌いな人のからかい方に似ているなと思ってる顔ですが
あなた
まじ?
はい
あなた
……
……
あなた
黙るのやめてよ気まずいじゃん!
……
あなた
うわーんどうしよう、恵くんがとうとうしゃべらなくなっちゃったじゃないかあ!
まるで子どものように幼く騒ぐ彼女はそうしてまた名前を呼ぶ。
きっと本人はなんの意味ももってないのだろう。
自然と出た言葉なのだろう。だから余計に、くるしいのだ。こちらが同じようにしてしまえば、もう元には戻れない気がして。


――すでに手遅れだというのに、未だ脳内でそんなことを考えているなんてどうかしている。

彼女と居て変に落ち着いてしまうのは、それは彼女の面倒見の良さもあるのだろう。相手が年下の俺だから、敢えてそういう風に接しているのか。他の人に対してはどうなのだろう。

否、考えなくともわかることだ。だって彼女自身が言っていたではないか。それこそ、元カレの話を初めて聞いたときに――。彼女はもとから、誰かに尽くしてしまう気質があるのだ。だから、今俺にこうして構っている。

だから、俺は勘違いしてしまって、それに甘えているのだ。
……そういうのが、一番良くない
無意識に、口に出していた。
わかっている。わかってはいるつもりだ。それなのに。
あなた
あ!しゃべった。……なんて?
俺の言葉は届かなかったらしい。けれどそれでよかった。今のは届かない方が良いだろう。
何でもありません
あなた
えーなにそれこわ、きになるんですけど
気にするな
あなた
えーやだやだなんていったの?
言わない
大人気なく、手足をばたつかせるさまはやっぱり、五条先生に少し似ていた。

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