牢屋番号2
薄暗い通路を進むたび、
空気が少しずつ冷たくなっていく
壁についた照明は不安定に点滅し、
監獄全体が静かに軋んでいた
【囚人番号2番 みどり】
プレートを見上げた瞬間
背後で、かすかな笑い声がした気がした
振り返っても、誰もいない
静寂だけ
扉へ手をかける
『認証完了』
機械音
鉄扉がゆっくり開く
部屋の中は暗かった
照明が妙に弱い
窓もない
ただ、部屋の隅に一人、
小さく座っている影があった
膝を抱えて、俯いている
緑のパーカー。ぼさぼさの髪
気配が薄い
中へ入ると、影がびくりと肩を揺らした
反射的に、距離を取るように壁際へ下がる
怯えた動き
らっだぁとは真逆だった
何も言わず立っていると、
みどりは恐る恐るこちらを見る
目が合った瞬間、すぐ逸らした
何に対する謝罪なのか、わからない
途切れ途切れの自己紹介
声も小さい
人と話すことに慣れていないのが、すぐにわかった
沈黙
時計の音だけが響く
みどりは落ち着かなさそうに指を弄っている
資料を見ると、そこには簡単な記録だけ
【囚人番号2番】
【複数人殺害】
【危険度:高】
らっだぁと同じ
詳細は何もない
みどりはその資料を見ると、
少しだけ困ったように笑った
尋問を始める
みどりは少し黙った
視線が床へ落ちる
しばらくして
静かな返事
否定はしない
その声には、妙な実感の薄さがあった
まるで、他人事みたいに
沈黙
彼は口を開きかけ、やめる
そして、曖昧に笑った
その言葉だけ、少しだけはっきりしていた
眉をひそめると、みどりは慌てたように手を振る
彼はそこで止まる
言葉を飲み込む
そしてまた、俯いた
謝る
ずっと
存在するだけで謝っているみたいに
次の質問をしようとした瞬間
監獄にノイズが響いた
『──映像接続開始』
部屋の照明が落ちる
視界が暗転する
光
夕方の教室
窓から橙色の光が差し込んでいる
生徒達の笑い声
楽しそうな空気
その中に、みどりがいた
今より少し幼い
制服姿
友人らしき数人と話している
笑い声
みどりも小さく笑っている
穏やかな日常
ありふれた学校生活
机
ノート
鞄
どこにでもある風景
誰かが、みどりの肩を軽く叩く
周囲が笑う
みどりも困ったように笑う
教室
笑い声
誰が何かを言っている
聞き取れない
雨
屋上
フェンス
風の音
誰かが何か叫んでいる
でも聞こえない
世界全体にノイズが混ざっている
そして
暗転
暗い廊下だった
学校
夜
静かすぎる
足音だけが響く
一人の男子生徒が走っている
顔は見えない
息を切らし、何度も後ろを見る
震えた声
廊下の奥
何かが立っている
ぼやけていて、輪郭が曖昧
ゆらゆら揺れる影
そして
笑い声
男子生徒が悲鳴を上げる
影が近づく
足音はない
ただ、じわじわ距離だけが縮まる
静かな声
優しいくらい穏やかな声
男子生徒が泣きながら首を振る
影が首を傾げる
その瞬間
廊下中の電気が消える
暗闇
悲鳴
そして
ぐしゃり、と
何かが潰れる音
ノイズ
映像が崩壊する
最後に映ったのは
暗闇の中で、静かに笑うみどりの口元だった
視界が戻る
監獄
冷たい部屋
みどりは変わらず俯いていた
映像を見ていない彼は、恐る恐る見る
返事はない
みどりは少しだけ困ったように笑った
沈黙
みどりは膝を抱え直す
小さな声
また謝る
何度も
何度も
そして、少し間を置いてから
彼は最後まで言わない
ただ、静かに笑った
照明が、一瞬だけ赤く点滅した
暗転











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。