<炭治郎side>
ガラリと開いた扉の向こう側に立っていたのは、義勇さんだった。
短く言った義勇さんの顔から少しだけ視線を下げると、義勇さんが何かを持っていることに気がついた。
そして俺は、義勇さんが持っているものを見て、ハッと目を見開く。
義勇さんの手には……、俺が義勇さんの屋敷に行った時に持って行った包帯があった。
義勇さんはそう言いながら、持っている包帯をしのぶさんが差し出した手の上に乗せる。
俺が慌てて謝ると、しのぶさんが包帯を棚に片付けながら笑って言った。
そして、しのぶさんはくるりと体の向きを変え、義勇さんに向き直る。
しのぶさんはそう言って、義勇さんににっこりと黒い笑顔を向ける。
義勇さんはその笑顔を見て、静かにしのぶさんから視線を逸らした。
診察室から出て行こうとする義勇さんを俺が慌てて引き止めると、義勇さんは不満そうな顔で俺を振り返った。
その表情には珍しく感情が出ており、『それをお前が言うか』という気持ちがひしひしと伝わってきた。
俺と義勇さんが睨み合って(?)いると、後ろからしのぶさんが吹き出す声が聞こえてきた。
その言葉を聞いて、俺も義勇さんも同時にしのぶさんを見る。
そして、お互いに目を合わせた。
俺はそれが何だか気恥ずかしくて、へへへ、と少しだけ笑った。
すると義勇さんは、スン、と何の感情も読めない澄まし顔をした。
そんな義勇さんに、しのぶさんが静かに歩み寄った。
俺は、しのぶさんと義勇さんの会話を聞いて、思わず声を上げてしまった。
義勇さんが言っていることは確かに間違いじゃない、間違いじゃないけれど……ッ!!
しのぶさんの誤解が解ききれていない様子に、義勇さんも俺も瞠目する。
そんな俺達を見て、しのぶさんはまた肩を揺らして笑い、包帯を片付けた棚に片手を置いた。
そして、微笑んでくるりと俺達を見る。
しのぶさんの問いかけに、俺はすかさず「はい」と言おうとして、やめた。
ここは、俺ではなくて義勇さんが答えるところだと、そう感じたからだ。
少しだけ間を空けて、義勇さんがそう答えた。
その思いがけず優しい言葉に、俺は思わず隣にいる義勇さんの顔を見た。
義勇さんは数日前のことを思い出すように少しだけ目を伏せ、そして……、微笑んでいた。
優しく、柔らかく、とても綺麗に。
しのぶさんと俺が同時に声を上げた。
でも、声を上げた理由は同じではないだろう。
何故なら、俺は義勇さんがそう言った直後にまた、藤の花に似た、甘い匂いを感じたからだ。
しのぶさんが、義勇さんの近くに寄って行って、つんつんと義勇さんの腕をつつく。
しのぶさんから香っているわけ……ではない。
窓も閉まっていて、外からあの藤棚で咲いている藤の花の匂いが香ってきているわけでもない。
それならばこの匂いは……、義勇さんの、、
義勇さんの、優しく包まれるような匂いに、気持ちがふわりと高揚して、心拍数が上がっていく。
義勇さんから香るこの藤の花と似た香りは、彼が大事な人を想う時の匂い。
その匂いが、気持ちが、自分にも向けられている。
藤の花の花言葉は、”優しさ”、”歓迎”、”決して離れない”だ。
ただの言葉遊びだ。
やっぱり偶然だ。
どう思われているかは言葉で聞いてみないとわからない。
それでも、もしかして、もしかしたら、と思ってしまう。
義勇さんの、義勇さんの隣にいることを許されたのかもしれない、と自惚れてしまう。
俺が呼ぶと、義勇さんは振り返る。
そしていつも、何か後ろめたいことがない限りはいつも、俺の瞳を真正面から見てくれる。
俺はそんな義勇さんの手を両手で包み込むようにして取った。
_追いついて、そして、義勇さんの隣に並ぶから。
俺が言うと、義勇さんは少しだけ驚いたように目を見開いた。
だけどすぐにその目を優しく細めて、フッと微笑んだ。
また、ふわりと義勇さんから藤の花と似た香りが漂ってきた。
ほんのりと自分の頬が紅潮していくのがわかる。
義勇さんに想われているのではないかと考えると嬉しくて、心臓がドキドキする。
ああ、これが、これが。
_____愛おしい、という気持ちなのだ。
こんにちは。作者の「藤」です。
今回の話は、pixivの『彼は誰に馨る』(かはたれにかおる)という漫画を参考にして書かせていただきました!
とっても素敵なお話なので、興味がある方は、ぜひそちらも呼んでください!
そして、ここまで読んでくれた皆さん、最後までお付き合い下さり、ありがとうございました。
それでは、あとがきがめちゃくちゃ短いですが、ここら辺で。
また、別のお話でお会いしましょう!
またね!!












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!