今日は科学小屋のすみっこに、怪しい“影”がひとつ。
……つまり、私。
扉の向こうでは、千空が実験中。
そこへ、ゆる〜く入っていく気配がひとつ。
……つまり、ゲン。
(いけいけ〜〜、タイミング見て!)
心の中で親指を立てながら、私は扉のすき間からこっそり見守っていた。
「やっほ〜、千空ちゃん」
「……ゲンか。今は火薬使ってっからあんま騒ぐなよ」
「はいはい、物騒〜。ってことでちょっと確認したいんだけど〜」
ゲンがさらっと近づいて、何気ないふりして話しかけてる。
私は心臓をばくばく言わせながら見守る。
(くる、くる……!?)
「ほらさ〜、あなたちゃんって、今や完全に“千空ちゃんの彼女”じゃん?」
「あ?」
ピタッと、千空の手が止まった。
「だから、もう彼氏としてはどうなの〜?毎回こき使ってないで、ちゃんとねぎらってあげてる〜?」
「なんだそれ」
「いやいやいや、だって千空ちゃん、あんなこと言っておいて、それって、つまりそういうことでしょ〜?」
「……何が彼氏としては、だよ」
そう言った千空の顔が……
思いっきり“真顔のふりした赤面”になってる。
(あーー!!動揺してるじゃん!!)
私は心の中でバンザイした。
でも、声には出さない。
がんばって無言で小さくガッツポーズ。
「ふ〜〜ん?でも、ここはちゃんと“正式に付き合ってます”って言った方が、わかりやすいしお互い安心じゃな〜い?」
「……俺はもう十分伝わってると思ってたけどな」
その言葉に、私はドキンとした。
ゲンが少しだけ目を丸くする。
「おやおや〜、それはつまり……」
「それ以上詮索したら火薬ぶつけんぞ」
「ひぃっ!科学暴力〜!」
ゲンが笑って引くその横で、千空はふっと息を吐くように、小さく、でもちゃんと聞こえる声で言った。
「……別に、“付き合ってる”とか“彼女”とかそういうのは、俺はどうでもいいと思ってるけどな」
「ん?」
千空は、器具を片付けながら、ぶっきらぼうに言い放った。
「“そういう存在”だってのは、本人がわかってりゃ……それで十分だろ」
その声に、扉の向こうの私は、
心臓をぐっとつかまれたような気持ちになった。
(“本人にわかってりゃ、それで十分”……)
そっか。
この人は、ほんとにそういう人なんだ。
きちんと向き合って、ちゃんと考えて、わかる相手には、ちゃんと伝えてるつもりで。
でも、
(……それでも、やっぱり“言葉”って、欲しくなるんだよなぁ〜!!)
嬉しさともどかしさでグラグラ揺れながら、私は草陰で地面に倒れ込んだ。
恋する乙女の作戦は、どうやらもう少し、続きそうだ。
*****
【おまけ】*千空目線
実験の音が落ち着いた頃。
気配でわかる。
……あいつ、まだそこにいるな。
ドアのすき間。
影の中。
声をかけるでもなく、ただこっそり、気配だけ潜ませてる。
(……バレてねーつもりか?)
ゲンに絡まれてる間中、なんとなく、視線を感じてた。
鈍感そうで、でも変に鋭いところがある。
正直、あいつが“言われたいこと”があるのも……わかってはいる。
付き合ってるだとか彼女だとかそんなんは関係ねぇって言ったのは、嘘じゃない。
そんなもんなくても、
俺は、俺なりに全部見てるし、
必要だと思えば全部動いてる。
でも、
(……ちゃんと言葉にした時、あいつはどんな反応すんだろうな)
なんて、そんなことを考えている自分がいた。
……まぁ、今はもう少し、このままでいいだろ。
そう考えながら、俺は手元の工具を片付けた。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。