第129話

EP.128 闇の印
1,141
2024/07/19 08:00

ガラスの砕ける音が響き渡る。
皆が私の思い切った行動に、唖然と立ち尽くしていた。

これで良かったんだ。
あいつの手に渡るぐらいなら、いっそのこと無かったことにすれば、相手の思い通りにならなくて済む。

ヴォルデモートに視線を向けると、怒りを見せるわけでも、悲しみを見せるわけでもなく、ただ真っ直ぐ私を睨んでいた。

その様子が、より一層不気味さを増す。
何かが起こりそうな不穏な空気。

そして、勿論その予想は的中することになる。



静かな空間に、周りの建物の窓ガラスが、小さく揺れているのに気づいた。
アルバス・ダンブルドア
アルバス・ダンブルドア
下がりなさい
ダンブルドアがそう言って杖先をヴォルデモートに向けた次の瞬間、大きな音を立てて窓ガラスが全て割れ、破片が飛び散った。

まるで生きているかのように、ガラスの破片が宙を舞った。ヴォルデモートの杖の動きと連動しているのだろう。

大きく円を描くように杖を振ると、だんだんと宙に散らばった破片が集まり始めた。
トム・マールヴォロ・リドル
愚かだ
私を見て笑みを浮かべたヴォルデモートが、杖の先を私たちに向けた。同時にあり得ないほどの量のガラスの破片が、私たちに向かって飛んできたのだ。

隣にいたドラコは、私を引き寄せて首元を掴み、胸にグッと顔を押し付けた。

ダンブルドアの盾の魔法により、ガラスは私たちに刺さることは無かったが、魔法により砕けたガラスの粉が全身に降り注ぐ。

思わず、目を閉じた。
ドラコ・マルフォイ
ドラコ・マルフォイ
……ッ平気か
ドラコの声に、顔を上げて周りを見渡した。

ヴォルデモートの姿は居ない。
あなた
あいつは…?
ハリー・ポッター
ハリー・ポッター
消えた…
あなた
消えた?
呆気に取られて、ボーッとするハリー。
あなた
急に消えるなんておかしい。
妙に静まり返った空間に、嫌な予感がする。
アルバス・ダンブルドア
アルバス・ダンブルドア
君たちは先に学校へ戻りなさい。
ダンブルドアが振り返った。

それと同時に、感じたことのない冷たい風が横から吹いてきた。

どうしてだろう、鳥肌が止まらない。
ドラコ・マルフォイ
ドラコ・マルフォイ
先に戻ろう、あなた
ドラコ・マルフォイ
ドラコ・マルフォイ
歩けるか?
足が何故か動かない。
声も出せない。

ドラコが心配そうに私を覗き込んだ。
ドラコ・マルフォイ
ドラコ・マルフォイ
………大丈夫か
ドラコが私の背中に優しく触れた瞬間、ガクンッと膝から地面に崩れ落ちた。
ドラコ・マルフォイ
ドラコ・マルフォイ
あなた!!!!!
息が苦しくてたまらない。

身体の中にもう1人誰かが、無理矢理入り込んでくるような感覚に襲われた。
一生懸命息を吸っているのに、中から首元を押さえつけられているようだ。

ドラコに抱き抱えられている私は、同じように倒れ込んでいるハリーと目が合った。

すごく心配そうに近づいてきたダンブルドアに、手を握られた。何を言っているかは聞こえない。

ただただ苦しくて、涙が止まらなかった。





_________苦しそうだな、あなた



アイツの声が聞こえた。


______お前を今すぐにでも殺してやりたいぐらいだが…
______それでは勿体無い
______私に仕えろ
______それがお前にとって1番の苦しみだろう


死んでも嫌よ。


______そうか、死んでも嫌か…
______でもそれが、恋人のためだとしたら?
______親友たちのためだとしたら
______どうだ


………どういう意味。


______私は今すぐにでもお前が愛している者を、全てを殺すことができる
______お前が私に逆らう権利なんて初めから無いのだ
______お前の愛してるもの全てを失ってもいいならば、この話は無かったことにしよう



ハーマイオニー・グレンジャー
ハーマイオニー・グレンジャー
あなた……ッ!!
下での戦いが決着がついたのだろう。
いつの間にか騎士団と共に帰ってきた、ハーマイオニー達の姿が遠くの方に見えた。
ドラコ・マルフォイ
ドラコ・マルフォイ
しっかりしろ、息をしてくれ…。
私の頬をそっと触り、今にも泣きそうな顔しているドラコ。私の隣で、悶え苦しむハリー。私たちの元へ駆け寄ろうとしてるハーマイオニーを止める、辛そうな表情をしたルーピン先生。

  



______愛する者を失うのは怖いだろう
______私に仕えるならば、あいつらの命だけは助けてやろう



卑怯だ。
人の大事なものと無理な願いを天秤にかけさせる。

今なら分かる。
こうやってたくさんの人を、卑怯な手を使い、自分の仲間にしてきたんだと。

中には本当に忠誠心を持って、仕えてる者もたくさんいるだろう。

だけど、少なくともドラコの父親は、私と同じように脅されたんじゃないのか。

本当に愛してなかったら、あんなに愛しくて悔しい表情で、怪我をしたドラコを抱き抱えないはずだ。




皆が無事で、私だけが苦しむならそれでいいのかもしれない。

あー、でもきっと
ハーマイオニーは泣いて怒るだろうな。

ドラコには、『2人で一緒に戦おう』って言っちゃったのにね。

本当にごめんなさい。
みんなのことを守りたいの。




______決めたようだな
______闇の印をいれるには、誓いの言葉がある
______頭には言葉が思い浮かんでいるだろう




不思議と聞いたこともない誓いの言葉が、頭の中によぎった。



______その言葉を口に出して唱えるだけだ




本当にみんなごめんね。
死喰い人になっても変わらずにずっと愛してるから。


あなた
闇の帝王、我が君。
私がそう呟くと、ドラコは目を大きく見開いて私を見た。

きっとドラコは、この言葉の意味を知っているんだと思う。言ってしまえばどうなってしまうのか分かっている。
あなた
私は貴方様に一生涯仕え、
ドラコ・マルフォイ
ドラコ・マルフォイ
やめろ、あなた
あなた
ご期待に沿う働きを、
ドラコ・マルフォイ
ドラコ・マルフォイ
やめろ!!!!
私の頬に添えられたドラコの手に力が入る。

私はその手をそっと握り、優しくドラコを見つめた。
あなた
命をかけて成し遂げることを……
ドラコ・マルフォイ
ドラコ・マルフォイ
あなた。
聞いたこともないぐらい優しい声で名前を呼ばれて、思わず言葉に詰まった。

早く誓いの言葉を最後まで言わないと、みんなが殺されてしまう。

ごめんね、ドラコ。
あなた
………ここに約束いたします
ドラコ・マルフォイ
ドラコ・マルフォイ
闇の帝王、我が君。
私の言葉に重ねるように、ドラコがゆっくりと呟いた。
ドラコ・マルフォイ
ドラコ・マルフォイ
私は貴方様に一生涯仕え、
ご期待に沿う働きを、
命をかけて成し遂げることを、
ここに約束いたします。
私はドラコの言葉に、泣き崩れた。
あなた
なん…で…ッ
あなた
ドラコ。
私は貴方を守りたくて…っ、
ドラコ・マルフォイ
ドラコ・マルフォイ
一緒に居ようと言っただろう
ドラコ・マルフォイ
ドラコ・マルフォイ
2人で戦うと言ってくれたのも君だ
ドラコ・マルフォイ
ドラコ・マルフォイ
君は僕を1人にしなかった。
だから僕も君を1人には絶対させない。




泣きじゃくるあなたを、愛しそうに抱きしめた。

そんな2人の腕には、
闇の印がゆっくりと不気味に浮かび上がった。




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