第23話

#21「あなたが私の幸せだから」
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2026/05/12 16:00 更新



あなた
………
あなた
なんで、かぁ。


「何で庇ったか」。
なんて答えるべきだろう、と思った。
なんて答えたら、彼が納得してくれるのか。と思った。

狛枝 凪斗
ボクらって出会ったばっかりだよ。
あんな場面、普通の高校生じゃ
立ちすくむのが当然だ。
狛枝 凪斗
ねぇ、なんでボクを庇ったの。―なんで、
狛枝 凪斗
なんであのとき、
ボクのせいじゃないって言ったの。


………

きっと普通の声だった。いつも通りの表情だった。
なのになぜか、それが、
子どもの泣く声みたいに聞こえた。

あなた
狛枝くんに、
怪我して欲しくなかったからだよ。
狛枝 凪斗
……それだけ?
あなた
うん。それだけ。
あなた
申し訳ないけど、今だってそう思ってる。
あなたがこんな目に
遭わなくてよかったって思ってる。
狛枝 凪斗
………ボクは、
狛枝 凪斗
ボクは、そんなこと、
一度だって望んでなんかない。


……


あなた
知ってるよ。だから、ごめんね。
あなた
こんなこと思って、ごめんなさい。


できるだけ、優しく笑った。分かっている。
あの行為は偽善で自己満だ。
彼を庇ったって、彼はそれを喜ばない。

でも、過去に戻ったって私は彼を庇ってしまう。
彼が傷付くのを見たくないから。
彼に今私が感じる痛みを経験して欲しくないから。


―――あなたにそう思う人間がいることを、

―――知っていて欲しいから。忘れて欲しくないから。


狛枝 凪斗
………ボクの噂を、聞いたはずだ。
あなた
え? ………ああ。
狛枝 凪斗
ボクの周りは、必ず不幸になる。
そういう風にできてるんだよ。


ああ。あの時の会話。もしかして、
彼は聞いていたのだろうか。

あなた
―――………ね、狛枝くん。
あなた
頭撫でていい?
狛枝 凪斗
は?


空気読め。と、暗に言われている気がした。
でも無視して笑ってる。
彼は困惑した表情で、「まぁ」と頭を差し出した。

彼の頭に触れる。できるだけ優し手つきで。
白いふわふわの髪の毛を、撫でる。
私がお母さんに、お父さんに
ずっとされたかった手つきで、撫でる。


あなた
大変だったよね。狛枝くん。


私は知っている。彼の人生の一部を。
彼が日向創に話した会話を、
画面越しに盗み見たようなものなのだから。

あなた
窓から石が飛んできた時もそうだよ。
結果的には私に当たったけど、
あなた
あんなの、狛枝くんも
同じくらい怖かったよね。
あなた
こういうことが、あなたの人生で
いっぱいあったんだよね。


彼が両親を亡くしたこと。
不運と幸運を繰り返す人生を歩み続けたこと。
戦闘機をあんなに怖がっていたこと。
ジェットコースターに乗れないくらい、
あなたが不運と、
不運が周りに及ぼす影響を怖がっていたこと。

あなた
なのに、狛枝くん
私の心配してくれたでしょ。
あなたって、すごい優しいひとだね。
あなた
狛枝くんを庇ったときにああ言ったのは、
あなた
そんな優しいあなたに、
責任を感じて欲しくなかったから。

あなた
もう一回言うけど、
あれはあなたのせいじゃない。
あなた
狛枝くん。私、不幸じゃないよ。
あなた
あなたは、周りを不幸にしてないよ。


頭を、撫でた。何度も。
彼は何も言わなかった。文句も、何も。

狛枝 凪斗
………


けれど数分が経った頃。彼はようやく口を開く。


狛枝 凪斗
……………キミって、変だ。


………

あなた
ふ、狛枝くんに言われたくないかな。

つい笑ってしまったが、
それでも彼は何も言わなかった。
今の言葉が、少しでも彼の何かを
刺激できたらいいのだけれど。

あなた
( 今、どんな表情してるんだろ )


そんなことを思いながら、
私はまだ暫く、彼の頭を撫で続けていた。

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