第347話

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2026/03/15 10:49 更新
 射抜かれたような顔をする少年を見て、彼女ははた、と視線を逸らした。
「いや、何でもない。忘れてくれ」それ以上踏み込むのをやめるように言葉を飲み込み、淡々としたトーンに戻る。


『まあ、お前はまだ子供なんだ。もっと我儘でいい。自分の意志を不格好に貫けばいい。……でも、差し出された手を全て泥だと決めつけるのは、あまり効率的じゃないぞ。……いや、これも私が言うことじゃないな』


 あなたの表情から、洸太は何とかして真意を読み取ろうとした。昼間の変声機を着けた彼女よりは、幾分か解読の余地があるはずだと縋るように。
 しかし、そこには読解を許す感情の揺れは見当たらない。自分の孤独を理解された気がした次の瞬間には、するりと指の間から逃げていくように、彼女の心は遠くへ逃げていく。

 洸太は沈黙を守っていた。だが、抑えきれない悔しさに口元を震わせると、弾かれたようにあなたを睨みつけた。


「勝手なこと言うなよ……! お前だって、結局は……。俺を説得して助けようとして、良い人ぶってるだけだろ」


 それは、洸太に許された精一杯の抵抗だった。そうやって言葉を重ねるお前も、結局はあいつらと同じ「救済」という名の傲慢に酔っているだけなのだと、自分に言い聞かせるように。


『そんな大層なもんじゃない。私はただ……一人の時間が欲しかっただけだ。お前はそのためのもっともらしい口実ダシにされただけだよ』

「……ダシ?」

『ああ。おかげでプッシーキャッツのメンバーの名前が覚えられた。貸し借りはない。……これで満足か?』


 その言葉は冷たく響くようでいて、今の洸太にとっては、どの慈愛の言葉よりも深呼吸を許す隙間をくれた。彼女は自分を憐れむべき弱者としてではなく、己の都合に付き合わせた対等な存在として、突き放してくれたのだ。


『……この辺でいいか? 時間を食った。もう寝る』

「……」

『お前も。子供らしくさっさと寝ろよ』

「が、ガキ扱いすんな……!」


 精一杯の威嚇を込めて睨みつける。彼女はそれを受け流すように小さく鼻を鳴らすと、「おやすみ」とだけ残して部屋を出た。

 静かにドアが閉まる。あなたが去った後の部屋には、青白い月明かりと、少年の整わない呼吸だけが取り残された。

 命無あなたが言うように、やはり彼女は自分の「同類」などではなかった。決定的に違う場所を見つめている、得体の知れない存在だ。
 ——けれど、どうしてだろう。胸を締め付けていたあの息苦しさが、今は少しだけ凪いでいた。

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