「特待生ともあろう御仁が、暑さごときに眉をひそめて、あろうことか帽子まで被ってくるなんて! 一体全体どういう了見だい!?」
『暑い』
「それにしたって帽子が似合うってどういう理屈!? 制服と似合わないもんじゃないかなあ、こういうのってさあ!」
『暑い』
「命無あなたって、ファンクラブがある自覚が欠如しているわけぇ!? どんな格好をするにも命無あなたの品位に関わるんだよ! 癪なことに似合ってるよ! 悔しいことにね! ちなみに僕の会員番号は——」
『暑い。本当に、暑い』
あなたは虚空の一点を見つめたまま、熱に浮かされたように断じた。
アスファルトから立ち上る陽炎が、視界をぐにゃりと歪めている。もともとあなたは、季節の極端な主張を好まない。暑さも寒さも等しく疎ましかった。
とりわけ、肌にまとわりつく湿った熱気は思考の回路を鈍らせる。涼を求めて川に飛び込むといった発想も、水を被ることを嫌う彼女の辞書には存在しなかった。
この不快さを数パーセントでも削ぎ落とすために帽子を被っているというのに、なぜこの男は、わざわざ脳に熱を溜めさせるような声で喚くのか。
あつい。うるさい。
その二語が脳内で飽和し、もはや「お前うざい」と毒づく体力すら惜しい。語彙は熱に溶け、ただ体感だけを反芻する。
「にしたって、A組補習いるの? つまり赤点取った人がいるってこと!? ええ!? おかしくないおかしくない!? A組はB組よりずっと優秀なハズなのにぃ!? あれれれれえ!?」
『どうにかしろ』
限界だった。あなたは近くにいたB組委員長、拳藤一佳の袖を無表情に引いた。拳藤は一瞬きょとんと目を丸くしたが、差し出された指先が物間を指しているのを見て即座に察した。
流れるような手刀が物間の首筋に沈む。くたりと折れた彼とともに、騒音の波が引き、周囲の気温がわずかに下がったような錯覚を覚えた。
「ごめんな」
「物間怖」
拳藤が申し訳なさそうに眉を下げると、背後からB組の女子たちが波のように寄ってきた。体育祭で見かけた顔ぶれだが、朦朧とする意識の中では名前まで思い出せない。
なぜ自分を取り囲むように集まってくるのか、その理由は判然としなかったが、おそらく委員長の力が伊達じゃないってことだろうと受け取った。こちらも同じようなものだったので、そう他人事のように納得した。
すると、拳藤の背後にいた女子の一人が、不意にあなたの目の前で足を止めた。感情の読めない無機質な瞳が、じっと、射抜くようにあなたを捉える。
「ん」
『……はぁ?』












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。