随分変な関係だと、見ていてよく思う。
あの二人。蘇枋とあなた。
蘇枋は多分、あなたのことが好きなのだと思う。
何故って、蘇枋の様子をみていればすぐにわかる。
そう、最近で言えば――。
あなたはかわいいので、たまに、というよりよく、客にちょっかいを掛けられる時がある。
うちの店は若い人もよく来るのだ。
そして最近蘇枋もよく一人で来ることが増えたのだが、あなたがほかの男の人に話しかけられているときの、あの蘇枋の顔といったら。
あれは面白い。
というか、一人でここの店に来るようになったのも、きっとあなたがいるからなのだろう。
見ていてあまりに気になるので、私はとうとう言ってしまった。
カウンター席に座って紅茶を飲む蘇枋は首を傾げた。
ティーカップの持ち手に指を引っ掛けたまま、蘇枋は苦笑いをする。
彼は一度、何か言おうと口を開けたけれど、何を言っても私が引き下がらないことが分かっていたからだろう。観念したようにへらりと笑いを浮かべて、「もうずっと。」と答えただけだった。ずっと。
もっと具体的に、という私の心中も伝わってしまったようで、蘇枋は、今度は店を慌ただしく歩くあなたを見やり、
今度こそ、そう答えた。
彼女を見つめるその瞳は、届かないものをみているかのようで、寂しそうだった。一番蘇枋が彼女の近くにいるはずなのに、私はそう思ったのだ。普段から大人しい印象が強い分、ちゃんと青年の心がある、ということに少しほっとする。
彼女がこの店で働くようになって大分経つ。未だ、私には彼女が抱えるものを教えてもらえていない。ただ、後天性の病気である、とだけ。私が入る隙はなさそうだ。仕方ないだろう。そもそも、本人が話したがらないことを無理に聞き出すべきでないのは私もよくわかっている。
蘇枋は当然何か知っているようで、まあ、当たり前だろうか。幼馴染だというし、蘇枋も何か関わっていたのだろう。
あなたの方はおそらく、記憶をなくしはじめて蘇枋と会ったのは本当に最近なようだ。初めて二人を見たときは、もっとお互いよそよそしかった。今では普通に、いや、むしろ大分距離が近いように思える。記憶をなくし続けてもなお、信頼というのは途絶えないものらしい。
出会って数週間、数か月の私はやはり、でしゃばるべきではないのだろう。
それでも、少しでも力になれたら良いのだが。
カウンターまで小走りで駆け寄るあなたを見て、私はそう思った。
・
心の中に浮かぶのはどれも言い訳ばかりだった。
ーー衝動だった。あの日は本当に忙しかったのだ。
ーー敵対チームとの抗争、仲間の負傷。どれも行き過ぎていて、心の余裕を失った。
常に開けてある心のスペースはだんだんと禍々しい感情で満たされてしまって、ただ冷静な思考など
捗るわけもなく、「どうしよう」とどうしようもないことを考えることしかできなかったのだ。
皆は自分を強いと言う。
皆は自分を心優しいと言う。
けれどもそんなのは間違っている。
本当に優しいのはにれ君のような人を言うのだ。本当に心穏やかで強い人とは、桜君のような人を言うのだ。
寛容な人というのは、あなたのような人を言うのだ。
オレはただ、卑怯で劣悪な人間なのだ。
強いというのは、自分が傷つきたくないからそうならざるを得なかった。
優しいのは、臆病なのを隠すのに必要だった。
押しとどめていた感情があふれ出して、気を抜けば倒れてしまいそうだった。
それほどに自分は弱い人間なのだ、と。
そんな自己嫌悪をさらに言い訳に使おうとするのだから、もう自分はどうしようもない人間である。
大好きな人。愛おしくてたまらない人。
君はどうしても、心根がまっすぐで、純粋だから。
オレが君に口づけても、君はオレのことを責めたりしなかった。
いっそ、全部オレの所為にすればよかったのに。
こんな人間に優しくする必要がないのに。
君が謝る必要なんてないんだよ、どこにもね。
裏庭の花壇に咲く水色の朝顔は僅かに雫が乗っていた。おそらく先ほど、彼女の母親か誰かが水をやったのだろう。
花壇の前にしゃがみこみ、花弁をなぞる様子は確かに楽し気だった。このごろ彼女から漂っていた疲労感はいまは感じられない。その様子に、安心する。
ふと、後ろにも長方形型の植木鉢がいくつかあるのに気が付いた。百合の花が植わっている。
白色の花びら。
彼女のいう通り、花弁はしわができて、少し茶色が混ざっている。
なんて他愛無い会話だろう。
きっとこのままが続くなんて、そんなこと、あるわけがないのはわかっている。
だから一番、オレが気を付けなくてはならない。
もう二度と失われてはならない蝶を守るために。
ガラスのような瞳に、オレの顔が映っている。
ーーあながち間違ってはいないかもしれない。花言葉などの知識はあるほうだ。
オレは少しだけ言葉に迷って、それから悩む彼女にやんわりと笑顔を向ける。
並んでいる白色の中で、一つだけ。
バーミリオンが差す花が、風で揺れた。
きっとその店主は、深い意図などないのだろう。
夏。じわじわと蝉が鳴いている。もう明日からは夏休みだ。
風鈴高校は普通の高校とは違うので、夏でも見回りやお祭りの手伝いなどがある。
敢えて言わなかったことは、彼女は責めたりしないだろう。
視界の隅で揺れるオレンジ色を疎ましく見つめながら、オレは楽しみ、とつぶやいた。
言葉にならない悶々とした気分は、一人で帰り道を歩いているときも、寝る前でさえも、消えることはなかった。
32__憎悪
久々の投稿です。やばい、全然投稿せずに、また今年が終わる……
無事に大学決まりました。部活も吹奏楽をそのまま続けます〜(謎報告すみません)
大学の課題やら一応の共テ対策やらで最近忙しくてあまり見れませんでした、、でも年明けも多分アンコンとかでごたついちゃうかも、、、😭
できる時にまたとうこうしていきます。
これからもよろしくお願いします。
今年中はまだ他にも投稿するかもしれませんが、一応皆さんもよいお年を。
あっそうだもうひとつ報告なんだけど、
ファンマちゃんと決めたので!💜⚡️です、つけてくださる方はコメントくださったら勝手に主が嬉しくなります。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。