ええと、話が食い違ってたの本当に申し訳ないですがもう神様が空から大量の水をぶちまけていったか夢主が傘をさしていなかったか爆風すぎてずぶ濡れになったか蘇枋くんが傘を放り投げて夢主だけずぶ濡れになったか、ということに……すみません、おねがいします、まじでもう、申し訳なさすぎて涙出そう
そんなこんなでこのまま話を進めさせていただきます。すみません。ほんとうに。
書きながらすごく罪悪感が…………。ほんとごめん。もう夢主は雨で濡れたことにしておいて……ほんとごめんね。
歩いている間も無言だった。私の心も自然と軽くなっていた。
でも、約束とは違う形で連絡先を手に入れてしまったのも確かで。
これ、私が号泣していたから仕方がなく、とかじゃないよね?いやたぶんそうだよね。とか考えていたら、そんなの謝らずにはいられなかった。
私が言うと、先輩は少し考える素振りをした。人差し指を唇に当てて。
柔らかな肌が陽光を反射している。空はすっかり晴れて、空が朱を帯びている。遠くの方は若干紫だ。きれい。蘇枋先輩には劣るけど。
先輩は僅かに首を傾けて、ちょこっと横から私の顔を覗き込む。さらりと綺麗な前髪が流れる。
近いよ、近い。
まるで心臓が止まったみたいだった。今日の私は固まってばかりだ。だって、でも、でも仕方ないじゃない。
こんなの、誰が予想できるっていうんだ。
やっぱり先輩はいつだって冷静だ。
慌てているのはずっと私だけ。それもこれも、先輩のことが好きだからに限るから、なのだけれど、
でも!
何が面白いのか理解できない。
その後に言った先輩の言葉はあまりに小さかったから、私の耳まで届かなくて、
聞き返しても、彼は教えてくれなかった。
先輩はやや棒読みだ。関係の浅い私はそれがどんな理由で言ってるのかわかんないけど、どうしても
知りたくてせがんでいたら、
なんて彼は口にする。よくそんな恥ずかしい台詞言えるな、とか思っていたけど案の定私は照れてしまって。
耳の先まで真っ赤になってしまった私は結局折れることにした。確かに本人が言わないことを詮索するのは良くない!
というか、蘇枋先輩の言うご褒美って──。私は自分が持っていた袋の中身を見る。白のタオル。と、その下には私の濡れた制服が入っていて。
そして今も私は彼の私服をまとっているわけで。
もしかしてこれも彼の言うご褒美?
顔の赤らみはしばらくひかないと思う。とりあえず、家まではマシな顔色に戻そう。
でないとたぶん、お母さんに誤解されかねない。
──❅───❅──❅❅──❅────
家の前まで送ってくれた彼はにこりと微笑んだ。天女の笑み。生まれてきてくれてありがとうございます。一生ついていきます。
家の前でお辞儀しまくっていると、ガチャリと音がして私はさぁっと青ざめた。あ、まずいこれはまずい。
空いたドアの隙間から、家の玄関の明かりがもれる。
小学三年生に、常識は通用しなかったみたいだ。今男の人の服を着ている私も常識とはほど遠いだろうが、でも弟は空気を読むことなどせず容赦なく叫んだ。
そんな様子に蘇枋先輩はふふと笑っている。笑っていいとこじゃない。お母さんに見られたらなんて言われるか。え、お父さん帰ってきてないよね?怒られたくない、怒られたくない……!
家の中からはバタバタと音がした。
本当に慌ただしく、母親はやってきた。
母親は私を見てギョッとして、それから隣りにいる蘇枋先輩を見て、私を見た。
困惑するのも仕方がないだろう。確かに、はたから見れば、ただの先輩後輩仲なのに服を借りるのもおかしいような。
なんで私服借りたんだっけ?
とっくに脳は許容範囲を超えていて、ぷすぷすと音がする気がする。もうだめだ。とか考えていると、流石高校生と言うべきなのか、先輩が落ち着いて説明してくださった。
なんだか申し訳なさそうな顔をしている。まるで捨てられた子犬みたいな。そんな顔するときあるんだ、じゃなくて!!!!まって、先輩が謝ることじゃないのに。私が謝らないといけないのに。
余計なことを言う前に口を閉じろってか。母の圧におされて私は思わず黙り込んだけど、
そんな言葉についまた声を荒げた。
──というのも、彼の部屋を見てしまったからだ。まず、よくよく考えたら不良の高校で一人暮らしって、普通じゃない。それに彼はなんだか不思議な雰囲気を持っているのもそうだけれど、あまりに大人びているし、なんとなく、過去に大変なことがあったのかもと──そんなのは私の妄想にすぎないかもしれないけども。
でも、そうかも、と思ったから、
言葉を続けようとすると、
ときっぱり断っていた。
あまりにあっさりしているから、やっぱり私の妄想かも。恥ずかしいことを考えてしまった。と少しだけ反省した。
母親もはっきり断られたので引き下がって、
一応結構言っていたけど、もう一度だけ「ありがとうございます」というと、先輩はまた笑うだけだった。イケメン。なんか大ごとみたいになって申し訳ない。
母は何度も頭を下げている。うちのお母さんはこういう人だ。
先輩はさりげなく話をまくのが上手い気がする。自分のことはあんまり話さない。
それからまたお母さんは帰り気をつけてね、と声をかけて家の中に戻ろうと足を一歩引いた。たぶんこのままだと一生この話が続きそうだと思ったのだろう。
家の中から小学生が叫んでいる。また何かやらかしたのだろうか。
お母さんはするとハッとして、「ごめんなさいね」と言い残してバタバタ家の中に戻っていった。
あんまりお礼を言うのももう先輩も十分だろうから、私からも少しだけ会釈すると、「あなたちゃん」と呼び止められる。
バレてた。
先輩の家庭環境が実は何かあるんじゃないかとか変なこと考えてたのバレてた!?
それだけ言って、先輩は
と言った。
「また」があるんだ。「また」あって良いんだ。そりゃそうか。
だって色々、返さないとだもんね。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。