「…ぃ………おい!」
少し強めに肩を揺すられる。おいと呼びかける声に導かれる様に瞼を上げる。俺が起きた事を確認したのか、相手は肩から手を離し「坊ちゃんがお呼びです」と言った
『…わかった』
隣に置いてあった面を手に取り小さく息を吐く。面を付け、顔を隠して同僚と共に部屋を出る。2人分の靴音が廊下に響く中、少し前を歩いていた同僚は歩くスピードを緩め俺の隣に並んだ
「いい加減坊ちゃんの前では仮面外したらどーです」
顔を覗き込む様に腰を曲げこちらを見上げる同僚はジトッと下目を向けてくる
『言っただろ。俺がこの面を家族の前で外す事は無い』
「下っ端共がソレ付けてる理由、好き勝手言ってますけどいーんです?……すげぇブサイクだからとか、附子だからとか」
『それどっちも変わんなくね』
「どっちも変わらねえですよ」
『だよな……つーかそんな下らねぇ事言ってる暇あったら少しは鍛錬しろってんだ』
「言ってんの俺じゃねえです」
『お前には言ってねえよ』
軽口を叩きながら、若頭の待つ部屋のドアを開ける。白いスーツに身を包んだ若頭は俺達に気づくと「あっ」と声を上げ眩しい笑顔で手を振った
「オペラ、あなたさん!」
此方に駆け寄って来る若頭はまだまだあどけなさの残る少年…こんな子でもマフィアの若頭とは世も末だよなと思いつつも俺は彼の前に頭を下げた
『お待たせしてしまい申し訳ございません、若頭』
「えぇっ!?き、急にどうしたの………何か変なものでも食べた?」
『失礼だなおい』
「あっ、よかった。いつものあなたさんだ」
ホッと胸を撫で下ろす若頭の額を指で弾けば彼はごめんなさいと苦笑を零す。ちなみにオペラは早々にソファに腰をかけ寛いでおり、若頭の帽子を手の中で遊ばせていた
『それで、どんな要件でお呼びで?』
「えっとね…これから始める面接にあなたさんも同行して欲しくて」
『…俺が』
「うん」
『えぇと……非常に申し上げ難いんですが、若』
「うん!」
『俺に人を見る目はありませんよ…?』
「うん!大丈夫!」
両腕を胸の前で構え息巻く若に思わず仰け反ってしまう。一体何をどうして大丈夫だと言い切れるのか……面の下で顔を顰めれば「だって」と若は口を開いた
「あなたさんは眼が良いから」
『…』
「僕達が気付かない所にまで気付いてくれる。先生もあなたさんの観察眼は褒められるものだって言ってたよ」
『……そうですか』
「うん。それに何より、あなたさんにも一緒に決めて欲しいんだ。オペラと同じ僕の護衛なんだから」
それは理由になるのかという疑問は…腹の中に呑み込んだ。此方の手を握りお願いします!と言う若に了承し、2人と共に面接会場となる部屋へと向かう。部屋では既にカルエゴ君がリストに目を通しており、此方に気付くと重たい腰をあげた
「遅い」
「ごっ、ごめんなさい」
「若頭には言ってません……そこの2人、貴様らに言っているんだ」
「はいはい悪うございました」
『すみませぇん…』
「そ、それよりほら準備!準備しよう!ね!」
ピリついた空気を察してか否か、若は俺とオペラの背を押し部屋のドアを閉める。椅子に腰をおろしカルエゴ君が持っていたリストに目を通しながら俺は問いかけた
『ところでこのリスト、誰の仕入れです?』
「首領だ。ウラボラス監獄の出所者から引き抜いたらしい」
『はーん…なるほど』
「骨のありそうなヤツらは居ませんね。どいつもこいつも坊ちゃんの部下には不相応です」
『本当にな……仲間を売った奴とか結構居るみたいだし……面接する価値あんのかね』
「貴様ら口だけは達者だな」
「うるせぇですよ。そもそも俺とあなたが居るんだからそれでいいじゃないですか」
「あはは…それはそうなんだけど、おじいちゃんも部下は居た方が良いって言うし」
『……まぁいざとなれば弾除けに使えば』
「いいですねそれ」
「良くないよ!?!」
面接開始まであと数十分…会話を交えながらリストに目を通していた俺は、とある1枚にリストを捲る手を止めた
『………アスモデウス…』
聞き覚えのある名に見覚えのある顔…経歴は、ウォルターウラボラス刑務所にて暴行罪で服役一年か………リストの文字を追っていれば横から伸びてきた手にヒョイっと書類を取り上げられる
「………お前こんななよっちぃのが好みなんですか」
『言い方……。好みかどうかはおいといて……多少は見どころはあると思うよ』
「ただの暴行罪で1年服役しただけの輩に?」
『罪の重さが強さじゃないからな』
「………一理ある」
オペラは一瞬考え込む素振りを見せたあと、アスモデウスのリストを机に放った。集中からか緊張からか……若には此方の会話は聞こえていないらしい。ジッと手元のリストを見ながらブツブツと何かを唱えていた
「そろそろ面接開始だ。配置につけ」
腕時計に視線を移したカルエゴ君が指示をだし、俺とオペラは若の後ろへ移動した。面接で聞くことは名と年齢、前科・職業・家族構成…そして若が自分で考えた質問。其れが好きな食べ物はなんですか?だなんて…随分と平和だなと思う
短い面接の後、若が面接者への評価を述べ……最終的にカルエゴ君とオペラ、そして俺に良いかどうかの判断を委ねる。何人目かの面接者に差し掛かっても2人がOKを出すことはない
「僕はあなたのこと頼りになりそうだな〜と…思いました。三人が良ければ採用で━━━━━━」
「「却下」」
間髪入れずに答えた2人に若は理由が問えばカルエゴ君は仲間を売って減刑された所から信用に値しないとピシャリと言い放つ。カルエゴ君の意見を聞いたあと若は此方をチラリと振り返り理由を問うてきた
「オペラとあなたは…」
「コイツの死体処理させられんのが面倒だからです」
『弾除けにも使えそうにねぇので』
そうして面接は続いていき…訪れた小休憩。中々決まらない部下に若は頭を悩ませているようだが首領が妥協するなと命じたのであれば仕方のない事だろう
それよりも問題は、この後だ
「…入れ」
「失礼いたします
アスモデウス・アリスと申します
本日は献上物持ち込みの許可を頂きありがとうございます」
休憩終わり一発目…面接会場のドアを開けたのは
やはり…あのアスモデウスだった
背景が白は過去
黒は現在で進めて行こうかと思います











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。